第12話 レガシア商会への見学・・・・・・偵察です!

『こんにちは!ようこそレガシア商会へ!こちらの建物は様々な技術を使った施設となっております。常に心地よい温度で保たれる部屋、自動で上下に行き来出来る箱等々……どれもレガシア商会で特許を取っているものです。ぜひ体験していってください!』


「……うおっ、凄いっすね師匠。自動で箱の表示が変わっているっすよ」

「ほんとだ!中に誰かいるのかな……」

「ふふっ、ほんとだね」


 翌日、私とリリナ、アメインはレガシア商会の建物に来ました。王国でもかなり大きい方じゃないでしょうか。都会のビルを思い出すくらい高い建物に来ました。見た目の作りも多くのガラス窓があり、開けたエントランスには会長の銅像、そして――テレビ。

 さすがに薄型ではありませんが、この世界の技術でどう作っているのでしょう。魔法石の組み合わせですかね。うん、そういえば錬金でテレビとか作って店に置いても良さそうですね。


「ほら、行くよ二人とも」


 テレビに見入っている二人を引っ張って受付らしきカウンターまで歩いていきます。さすがに目立つから、とナギは調査に回しました。さすがに何も起きないでしょう。

 これまで入ったギルドは外部のお客さんも結構いましたが、ここの建物は関係者しかいません。本当に会社のビルといった感じで違う緊張感があります。


「すみません、会長さんと予約をしているのですが……」


 二人でお話をしていたお互いそっくりな受付のお姉さんに話しかけます。双子なのですかね。

 二人はお互い見合わせて、いかにも?という反応をしています。


「あ、えっと、マジカルシュガーのミナモです」

「……あ!あなたがミナモさん!?」

「もっと大人な方かと……錬金術師でもあるというお話だったもので……」


 うん、まあそうでしょうね。ええ、はい。といった返事をします。


「会長のお部屋はあちらの昇降機で最上階、20階です」

「どうぞ、お入りください」


 ありがとうございます。とお辞儀をして、手で示された方へと向かいます。昇降機……どんなものなんでしょうか。気のせいか、水の音がするような?

 私たちは案内された先、ガラス張りの壁に囲まれた、少し広めの四角い箱のような空間にたどり着きました。中には金属の手すりと小さなランプ、そして正面の壁にはプレートのようなものが埋め込まれています。


「……ここが昇降機、っすか?」

「わあ……すごいね!中も綺麗。木と金属の組み合わせって、お洒落かも」


 中に足を踏み入れ、脇のボタンの20と書かれたものを押すと、床がほんのりと揺れました。ごぅ……とどこかで水が流れるような音が響き、壁に取り付けられた案内板がふわりと光ります。


《 レガシア商会式 水圧昇降装置 》

 本昇降機は、上層階に設置された水槽より流される水の力を利用して、安全かつ静かに上下移動を行う構造となっております。魔法石を利用した仕組みは私たちレガシア商会にて特許を取っています。

 20階までは約30秒。扉が完全に閉まりましたら、自動的に上昇が開始されます。

 ※動作中は飛び跳ねたり、揺らしたりしないでください。

 提供:レガシア商会 技術開発局

 特許番号:第8210号「魔力併用型水圧式浮揚装置」


 なるほど、エレベーターみたいなものでした。昔は水圧とかで動かしていたと何かで見たことがあります。さっきのテレビもどきにも説明、特許があったのでしょうか。


「うわ、ちゃんと説明が……」

「なんか、こういうの読むとワクワクするっすね……」


 扉が静かに閉まり、足元からふわっと何かが浮かび上がるような感覚が広がります。水の流れる音が、壁の内側から低く、優しく響き続けていて――気づけば景色がじわじわと上がっていました。

 外の景色がガラス越しに流れていくのが見えます。見下ろすエントランス、広い吹き抜け、その先の階が次々と過ぎていって。


「これ、多分複数の魔法も組み合わせているっすよ。さすが、凄いっすね……」


 私は無意識に案内プレートの端に指を当てて、ふと笑ってしまいました。

 なんだか、異世界の技術というより、未来と魔法が手を取り合ってるような――そんな感じ。

 チン、と優しい音が鳴ると同時に、扉がふわりと開きました。


「……着いたみたいっす」

「最上階、か。いよいよだね」


 さあ、会長さんに会いに行きましょう。この街で、一番大きな商会の、その頂きに。

 ……とか言ってないと少し気持ちがおかしくなりそうです。

 エレベーターが止まった先は、静まり返った廊下でした。下の階のにぎやかさが嘘みたいに、音が消えたような空間です。

 廊下の床は赤茶のじゅうたんが敷き詰められていて、両脇の壁には装飾の施された柱と、控えめな照明が等間隔に並んでいます。窓の外には王都の街並みが一望できて、空の青がじんわりと差し込んでいました。


「わ……見晴らし、すごいっすね……」

「ここが最上階……なんだか、空に近づいた気がする」


 私は小さく深呼吸して、廊下の奥に見える重厚な扉に目を向けました。

 艶のある黒い木材に、金属の飾り金具。中央には控えめながら存在感のある紋章 ――おそらくレガシア商会のもの。

 その前に立つと、まるで私たちの訪問を待っていたかのように、扉がゆっくりと内側に開かれました。


「おお、来たか。……入れ」

 外の様子が見えているかのように、中から低く、けれど明るさのある声が響いてきます。昨日聞いた、あの会長さんの声です。

 扉の奥は、広々とした応接間のような空間でした。書棚に囲まれた壁、中央に置かれた重厚な机、革張りの椅子。

 そしてその向こう側、窓際に立っていたのは――


「ようこそ。ミナモとその仲間よ」


 振り返ったのは、昨日と変わらぬ様子の会長。少し自分の本拠地だからか落ち着いているでしょうか。


「はい……お時間、いただきありがとうございます」


 私は一礼し、アメインとリリナもそれに倣います。

 会長は微笑み、小さくうなずくと、机の横にある椅子を指さしました。


「ガッハッハ、かまわん、まずは腰をかけよ。話すことは山ほどある――菓子職人殿」


 その声は、優しさと厳しさが入り混じった、体の芯に響くような――そんな低さでした。

 まるで、この部屋だけが静かな異空間のようで……胸の奥に小さな緊張が、ひとつ、お砂糖のように溶けていきます。

 席に座った私たちを見て、ドカッと自分も着座します。

 おい、と声を出すと、秘書らしきおかっぱの女性がワインを持って現れます。秘書さんは同じく持ってきたグラスに注ぎ、机に置きます。それを一口飲み、足を組み、背もたれに体重を預けます。


「さて、準備は順調かね?」

「はい、なんとか」

「辺境伯付という事で王城のキッチンを借りているらしいじゃないか」

「ええ、ありがたいことです」


 秘書さんが私たちの分も飲み物を持ってきてくれます。そういえば錬金ギルドでも出てきましたが……


「それは南の大陸の名産品の豆を加工した飲み物だ。カーフィーという」


 怪訝な顔で私が見ていたからか説明してくれました。ああ、そうなのですか。カー〇ィみたいな名前だなぁ。

 というかそうじゃなくて、多分苦いんですよねこれ。この前も飲みましたが。それをこんな子供にミルクも砂糖も無く出しますか普通。「毒は入ってないみたいだよ」一口飲んで小声でアメインが教えてくれましたけど、そういう問題じゃなくて。でも飲まないと失礼ですか。えーい、覚悟を決めます!


「……美味しいです」


 うぅ……苦い……


「ガッハッハ!苦そうじゃな!その反応が見たかったんじゃ!おい、砂糖と牛乳を持ってこい!」


 秘書さんが持ってきてくれました。なんか……ちょっとイラっときました。リリナとアメインは普通に飲めるんだ。意外です。


「子供をからかうもんでも無いな!悪い大人になってしまう!」


 ……わかってるんじゃないですか。


「ところで、他に聞きたいことがあるんじゃが」


 ワイングラスを傾け、少し落ち着いた様子で座り直します。


「はい、なんでしょう?」



「――アーニャ姫は元気かね?」



 その言葉を聞いた瞬間、私の鼓動が止まったような錯覚を覚えました。いや、もしかしたら早まっていたのかもしれません。ともかく、とてつもない動揺でした。

 膝の上に置いておいた手が自然とギュッとなります。嘘……すべてバレて……?

 アメインは臨戦態勢に入っています。リリナは私を抱き締めました。遠くにいた秘書さんが懐から小型ナイフを取り出しているのが見えます。ナギを連れてきていれば良かった。そう思ったのは遅かったかもしれません。


「なんの、ことでしょうか」


 私の声帯から必死に絞り出されたのはそんな声、そんなセリフでした。笑っちゃいますよね。相手の方が何枚も上手の大人なんですもん。簡単な嘘なんてすぐにばれます。


「わかっておるぞ。どこに姫がいるか、お前たち一派が味方をしていることも」

「まさかこのタイミングで刺客を!?」


 今家は手薄です。といっても私とリリナは非戦闘員ですが。


「いや、送っとらん」

「……だとしたら、ここで私たちを始末するんですか」


 きっとあの秘書さんは強いです。それにここはこの人の本拠地。いっぱい敵はいるはずです。

 ――詰みです。そう思い、無意味な質問をしました。


「いやぁ?そんなことはせんわい」

「ほぇ?」


 グラスからワインを飲みます。予想外の言葉に変な音が私の口から出ました。


「お前らは辺境伯付きじゃろ?そんな奴らを始末したらすぐに調査が来る。そんな面倒なことはせん」

「……はぁ」

「姫も外部にはまだ漏らしてはいない。これは警告じゃ。子供の遊びではない。大人と大人の政治争い、一介の菓子職人が片手間に首を突っ込むようなものと勘違いしたか?」


 その通りではあります。私が入ることにずっと疑問はありましたし、私はお祭りを成功させればそれで良い。そう思っていました。ええ、私はただの子供ですし、なんかよくわからないけどたまたまチート能力を手に入れたのんびり暮らしたいだけのお菓子屋さんです。でも……


「ええ、勘違いしていたかもしれません」

「そうじゃろう。さ、何も知らないふりをして宿屋に帰って祭りの準備をすると良い」

「ですが」

「ん?」

「あなたのような悪人を放っておけるほど馬鹿では無いですし、何より友達の頼みを裏切ることは出来ません」


 言っちゃった。言っちゃったよう……でもその通りなんですもん。私はそこまで人間が出来ているわけではないですが、スルーできるほどの性根は持っていないです。


「師匠……」

「ごめん2人とも」


 心配するような目で二人が見ています。そうだよね……私も気持ちはわかるよ。


「貴様、それは宣戦布告か?」


 ぎょろりとした目が私を見ます。


「はい」

「そこまで言ったお前らを逃がすとでも?」

「はい」

「なぜそう思う?」

「だって先ほど面倒ごとは起こしたくないって言ってたじゃないですか。私は辺境伯付錬金術師。護衛だっています。私に何かあればその護衛が辺境伯様を引き連れてやってきますよ。そういうことになっています」


 嘘です。なっていません。必死に平常心に見せかけている私と、余裕の態度を崩さない会長のにらみ合い。そして。


「ガッハッハ!予想以上に肝が据わっているのう。ほら、武器を下ろさんか」


 後ろの秘書に言います。


「マジカルシュガー一行のお帰りじゃ。外まで案内しろ」

「……本日はありがとうございました」

「礼などいらぬわ」


 私達は席から立ちあがり、部屋から出ていきました。

――


「はぁぁぁぁぁ……やっちゃった、どうしよう……」


 建物から出た後、私はしばらく無言で歩き続けました。もう何も言える精神状態じゃなかったからです。角を三つ曲がったころ、へなへなと膝から崩れ落ちました。ひと気の少ない路地裏でですよ。

 秘書さんもめちゃくちゃ冷ややかに睨んできていましたし、怖かったです。 


「でも師匠かっこよかったっすよ」

「うんうん!」


 それまでは空気を読んで黙っていてくれた二人が私を慰めてくれました。


「だってそれにしても~……」


 そうするしか無かったもんね。でも、ちょっと後悔の部分も……


「戻ってから作戦会議っすね」

「うん……お店の事もあるし忙しくなるね……」


 ところで、なぜああいう人はすぐにこういう事をバラすのでしょうか。私たちに言わないでおいたら色々と優位に立てる気がするのに……


「それにしてもあの秘書……」


 ナギがぼそりと言います。


「どうかしたの?」

「いえ、気のせいでしょう」


 ……こういう時気のせいってことは無いんです。

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