第10話 王城のキッチンでお試しクッキングです

 お祭りが中止になるかはとりあえず置いといて(置いといちゃだめですが)、私とリリナは今王城のキッチンにいます。私の手で私の頼りに――楽しみにしているお祭りを潰してしまう気がして、現実逃避の意味合いもあるかと思います。

 まあ、アメインとナギは町で調査しているので現実逃避も出来ていない気もしますが……


「うわぁ、これがお城のキッチン。広いっすね……」


 あんぐりと口を開けたリリナがキッチンを見回しています。石造りの広い空間は下手すると重苦しい印象になりそうですが、開放的な大窓から光が差し込み、高い天井からはそんな印象は受けません。

 これまで見てきたどのキッチンよりかまども大きく、大鍋の数もけた違いです。奥に見える扉は食料の貯蔵庫でしょうか。せわしなく出入りしているコックさんがいます。


「こんなに大きなキッチンを見たのは初めて?」

「あ、はい」


 女性のコックさんが一人話しかけてきました。涼しげな目元が印象的で、どこかクールな雰囲気の女性でした。みんな忙しそうなのに大丈夫なのでしょうか?暇な方?


「……言っておくけど、暇じゃないから」


 心が読まれた!?


「ミナモちゃんだよね?王子に来たら案内してって頼まれたの」

「あ、なるほど……ありがとうございます」


 「私はココン。ついてきて」と言って歩き出したココンさんに付いて行きます。


「珍しい物を使いたいって聞いたけど、スペースが欲しいんだよね」

「ええ、そこそこの場所が欲しいです」


 縦横無尽に動く(縦は無いですが)コックさん達に会釈をしつつ、てくてくと歩きます。


「ここなら貸せるけど、良い?」


 ココンさんが案内してくれたのは、キッチンの片隅にある大きめの作業スペースでした。


「はい! ここで十分です」


 私は早速、ポーチから錬金術に使う素材を取り出します。リリナが期待に目を輝かせながら横で見ています。


「あ、皆さんちょっとだけ違う方向向いていてくれますか?」


 私のお願いで皆さんが違う方向を向いてくれます。良い人達で良かったです。


「さあ、いきますよ――レンキーン! オーブーン!」


 私の掛け声と同時に、素材が輝きながら空中で形を変えていきます。眩しいほどの光が収まると、その場には立派なオーブンが堂々とした姿で出来上がっていました。

 ちょっとだけ家のより小さめのオーブンはちゃんと排気も出来ていて、使い勝手は変わらなそうです。


「おおー、さすが師匠っすね」


 リリナが拍手を送ります。違う方向を向いていたコックさんたちも気になるようです。こんなことが起きていたら、気になるのも当然ですよね。


「レンキーン!電動泡だて器ー!」


 次々と道具を作成し、もう良いですよ。と周りに声を掛けました。


「ほんとに錬金術師だ、こんな子供が?」

「これは何に使うんだ?」


 振り返ったコックさんの驚きの声があちこちから上がりました。何回褒められても照れますね。


「さて、早速作っていきましょう。リリナ、一緒に頑張ろう!」

「もちろんっす!」


 私とリリナは手際よく材料を準備し、生地を練り、型に入れてオーブンへと運びます。使っている道具に対しても周りから歓声が上がる中、甘く優しい香りがすぐにキッチン中に漂い始めました。


「うん、いい匂い……」


 ココンさんが鼻をひくつかせ、うっとりした顔でオーブンを覗き込みます。


「焼き上がるまで少し時間があるかな」

 

 私は時計を確認しながら呟きました。すると、ココンさんがふと思い出したように口を開きました。


「そういえばミナモちゃん、王子様とはどんな関係?私も気になってたんだけど」


 ココンさんの問いかけに、周囲のコックさんたちも興味津々といった様子で耳を傾けています。んっと、全部は喋っちゃいけないよね。


「えーっと……特別な関係ってほどではないですけど、たまたま縁があって、ちょっとしたお菓子を振る舞ったりする機会があったんです」


 ほんとです。嘘はついていないです。


「ちょっとしたお菓子って言うけど、普通は王族に気軽に振る舞えないよ」


 確かに!ココンさんが楽しそうに笑います。リリナも頷きながら続けました。


「それは、ほら。師匠は辺境伯付っすから。その縁があってここも使わせてもらうことになりましたし」


 ふんふんとココンさんは頷きます。


「王子様は確かに厳格な印象だけど、実は甘党なのよね。お菓子を召し上がっているときはすごく嬉しそうな顔をなさるのよ」


 ココンさんが微笑みながら話すと、周囲からも同意する声が上がります。


「姫様はどうですか?やっぱり甘いものがお好きなんですか?」


 私が問いかけると、ココンさんは楽しそうに頷きました。


「姫様はお菓子を目にするとすぐに目が輝いて、よくキッチンにも顔を出てくるよ。手伝いたいと一緒に作ることもあるの」

「へー、そうなのですか」

「だからきっとあなた達ともすぐ仲良くなれると思うわよ」


 確かに仲良くはなっていますね。秘密を共有できるくらいには。はははと頬をポリポリ書くくらいしか出来ません。


「姫様も早く戻ってきてほしいんだけど……」


 そういえば姫様はどこに行ったんだろうな?と周りからも疑問の声があがります。うーん……いつまで誤魔化し続けられるんだろう。


「ねえ、姫様ってどこにいったか知らない?」

「え、えーっと……あ、そろそろですかね!」


 そんな話をしているうちに、ちょうど良く焼き上がりを知らせる香ばしい匂いがキッチン中に充満しました。話を逸らすのにも丁度良い時間です。


「焼き上がりましたよ!」


 私が声をかけると、リリナが急いでオーブンを開け、出来上がったクッキーとケーキを取り出します。黄金色に焼き上がったお菓子を見た瞬間、周囲からぱっと歓声が広がりました。


「わぁ、美味しそう!」

「お城でもこんなに綺麗に焼けるかまどはないぞ」


 すぐにクッキーとケーキを試食してもらうと、さらに驚きの声が広がります。


「なにこれ、すごく美味しい!」

「こんなお菓子初めて食べた!」


 ココンさんも目を丸くして頷きました。


「さすが。ミナモちゃんのお菓子、噂には聞いていたけど想像以上だわ」

「ありがとうございます」


 私は嬉しくなって微笑みます。リリナも得意げに胸を張っていました。


「これなら、お祭りでもみんな喜んでくれると思いますよ」


 リリナの言葉に、私も少しだけ胸が軽くなった気がしました。

 ……お祭りが無事開催されればの話ですけどね。

 コックさんたちの楽しげな話し声に包まれながら、私は少しだけ希望を持つことができました。まだ問題は山積みですが、少なくとも今は、この楽しいひとときを大切にしたいと思います。


「なあ、この道具貰っていいか?」

「え?」

「オーブン?とこの泡だて器、もし良かったら譲ってほしいんだ。金も払ってもいい」


 見ていたコックさんが言い出すと、他のコックさんも言い出しました。


「良いですけど……」


 この場合ってどうなんだろう。私の道具って一応特許取っていますよね?お金って発生するんでしょうか。

 ……うーん、でも譲るんだったら良いですよね。


「いいですよ。お祭りが終わったらこのまま置いていくので使ってください」

「おお!ありがとよ!」


 周りからまた歓声が上がります。忙しいんじゃないんですかね?ノリが良いですねここの方たち。


「良いんっすか師匠?そんなバラまいちゃって」

「楽になる分には良いんじゃない?お金も発生しないし、作れる人がいるとも正直……」

「あ、言っちゃうっすかそれ」


 だって前も思ったけど本当にそうだもん。私はエプロンを外しながら深呼吸をしました。うーん!とりあえずお店の方はこれで大丈夫ですね。背伸びもしてちょっとリラックス。


 自分で作ったクッキーも食べちゃいます。美味しいです。


「あ、そうだ。レガシア商会の会長さんが今日来るらしいけど、ミナモちゃん見に行く?」

「……はい?」


 今日は帰るだけって思いましたけど、イベントが一個増えちゃいました。

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