第6話 エルフ忍者メイドって色々混ざりすぎじゃないですか?
「暗殺者!でも、護衛?……あ、バーデンさんが言っていた!」
その護衛がこの人ですか。まさかエルフだとは思いませんでしたけど……というか、女の人だとも思っていませんでした。
そういえばそうですね。護衛がいるって言っていたんだから、町に来たら付いてきますよね。
「え、護衛?ミナモどういうこと?」
あ、そうだ、アメインとリリナには言ってなかったかも……
慌てて口を開きます。
「ご、ごめん、言ってなかったね。バーデンさんって前にも言ったじゃない?あの人たちが、私に護衛をつけたの。実力がすごいからって」
「へー、そうなんだ!」
「ミナモすごいもんねー」と、アメインはあっけらかんと笑います。
そのくらいのリアクションで、良かったな。
私は、目の前に立つナギさんに話しかけました。
「えっと、ナギさん?」
「拙者はただの護衛です。どうぞ、ただナギとお呼びください」
……拙者、って言うんだ……和風だなぁ。
それにしても最近こういう感じのさん付けNGな人ばかり会ってる気がします。
「じゃあ、ナギ。なんでいきなり出てきたの?」
「さっきも言いましたが、目立ちすぎです。あなたはなるべく目立つなと、バーデンさんに言われたでしょう?」
「……ごめんなさい」
初めてだったから加減が分からなかったんだもん……
とはいえ、確かにやりすぎました。冒険者ギルドにも登録することになっちゃったし。
「分かればいいのです。それに……」
「それに?」
「もう一つは、お礼を言いたくて」
お礼?なんでしょう?
「私も亜人です。先ほどのやり取りは、少しスカッとしました。ありがとうございました」
「あ、いえいえ……」
なるほど。そういうことだったんですね。
そこからは歩きながら、亜人の歴史について少し話を聞きました。
この世界には『亜人』と呼ばれる種族がいること。昔は人間からひどく虐げられていたけれど、『勇者』と呼ばれる方が権利を勝ち取ったこと。でも、あの酔っ払いのように、まだ差別意識が抜けない人たちもいること……
「ボクも、宿屋に泊まる時とか、大きい町に行く時は帽子を被ったりして隠してるんだよ」
と、アメインは明るく笑いながら言いました。何も悲しそうな様子はありません。でも、それが逆に、ちょっと胸が痛みます。悲しくないわけがないのに、無理しているんじゃないかって……
「エルフは傭兵として社会に溶け込んでいます。今では、護衛が本業のようなものですが」
ナギさんも、静かにそう付け加えました。
結構この世界にも黒い部分があるんだな。そう思いました。こういうドロドロとした部分は切っては切り捨てられないことなのかもしれません。私のお菓子で何か出来ないかな……
「ボクの故郷も『勇者』が作るのに協力したんだって」
その人はどんな人だったのでしょう。お二人が言うには、魔王と呼ばれる魔物を懲らしめた、という事らしいです。でもまた最近一部の魔物が攻撃的になっているとか。怖いですね。
とか話していたら、馬車に着きました。
「あれ、そういえばナギってどうやってここに来たの?」
「拙者は物陰や木から見守りながら来ました」
……忍者だなぁ。凄いけど、それ逆に目立つ気がするんだけど。
「もし良かったら一緒に乗りなよ。お金は出すからさ」
「……かたじけない」
馬車は、ゆっくりと揺れながら進み始めました。
座席に並んで座った私たちは、自然とぽつぽつと言葉を交わします。
「ナギは、昔から護衛とかやってたの?」
「はい。エルフの里では、武に秀でた者が外の世界に出て、身を立てる習わしなのです」
「へぇ……かっこいいなぁ」
アメインも興味津々で身を乗り出します。
ナギは私たちを見ながら、少しだけ表情をやわらげました。
「エルフは長命。なので鍛錬を積めば他の種族より強くなれるのです」
聞いたことあるエルフと違うな……弓を使っているイメージがあったけど……
「あと、基本的に依頼内容は墓まで持っていきます。ミナモ様の力についても聞いていますが、絶対に秘密は厳守いたします」
「へー、そうなんだ……」
あの二人が依頼したんだから信用しても……良いんだよね?
「町ではどこで暮らしているの?」
「基本野宿です。エルフは滅多なことでは死なないので」
「えっ、ご飯とかは?」
「虫とかでも、木の葉とかでも……」
「えっ、虫……!?いやいやいや……さすがにそれは無理だよ……」
思わずドン引きしてしまいました。この人を野放しにしておくのはなんか怖いですね……
そんな会話をしながらも馬車は進み、中はコトコトと木のきしむ音だけが響き、心地よい眠気を誘ってきます。
「ミナモ、寝ちゃダメだよ。まだ家まで着いてないよ」
アメインに軽く揺らされて、私はあわてて姿勢を正しました。
「だ、だいじょうぶ……ちゃんと起きてる……」
そんなこんなで、のんびりとした時間を過ごしながら、やがて私たちは家に到着しました。
「着いたね!」
アメインが元気よく飛び降りました。丘の上ではぷにちゃんが夜風に当たり、震えているのが見えます。
私も荷物を抱え、ナギに向き直りました。
「今日はありがとう、ナギ。助かったよ」
「拙者の務めですから」
ナギは深々と頭を下げ、そろそろと離れていこうとします。
でも、なんだろう。ここで「じゃあまた」ってするの、なんだか違う気がして。
「あのさ」
思わず声をかけました。
「この後って、また陰から見守ってくれるの?」
「ええ、そのつもりですが」
「だったらさ、もしよかったら、一緒に暮らさない? 私たちと」
ナギが立ち止まりました。
「……」
無表情のままですが、少し悩んでいるのがわかります。
「だって、一緒にいた方が楽じゃない? 護衛って言っても、ずっと遠くから見張るより、家にいた方が……ほら、ね?」
これは一理あると思います。それに、自分の護衛がそんな暮らしをしていたらなんか申し訳ない気持ちになります。
「それに……私も、アメインもリリナも、きっと楽しいと思うから」
「うん! ボクも賛成!」
アメインもすぐにうなずいてくれました。
ナギは、しばらく何か考えるように目を伏せて、そして無表情のまま顔をあげました。
「いえ、拙者はあくまでも護衛。そのようなお気遣いは不要です」
……あっれー?今の家族入りする感じの流れじゃなかったですか?おっかしいな……
「ですが、護衛を近くからするというのはいいアイデアですね。参考にさせていただきたいです。それでは!」
フッと煙のように消えてしまいました。うーん、まだ部屋もあるし、全然良かったのにな。
「断られちゃったね」
「残念」
とりあえず気を取り直して、リリナの待つ我が家に帰宅しましょう。お土産話も多いです。
――
「おかえりなさいっす~」
「ただいま。疲れたよー」
家に入ると、リリナが用意してくれていた夕食の香りが鼻孔をくすぐります。魚のムニエルと、焼きたてのパン。一応小型のオーブンも作ったので、それで焼いたんでしょう。色とりどりのサラダは目も喜びます。
「リリナって本当に料理上手いよね」
「そっちが本職っすから」
料理人の卵ですもんね。それは上手いですよ。
それにしても、こうしている間もナギは虫とか食べているのかな。さすがに護衛にもそんなことさせるわけには……
そんな事を考えながら、自分の部屋で貰ったものの整理を手早くしていました。料理が冷める前に行った方が良いもんね。
……ふと、私は辺りを見回しました。うん、周りには姿は見えないけど……
「ナギ、いる?」
……けれども返事はありません。いやいや、大きな蕪じゃないんですから。
「ナギー、助けてー」
「はい、いかがいたしましたか」
とても棒読みな演技でしたが、シュタッとどこからともなく現れました。いえ、演技とも言えないものだったと思いますが。
「嘘です。何も助けてほしいものはありません」
ふふふと悪い笑い方をしてしまいました。今だけ私は悪い子です。
ナギは一瞬むっとした顔になったように見えましたが、すぐに無表情に戻ります。
「……何も無いのであれば、護衛に戻らせていただきますが」
「ああっ!ちょ、ちょっと待って!」
「なんでしょうか?」
「あのさ、ご飯だけでも食べない?いかにエルフとはいえ、ちゃんとしたもの食べないとさ。それに、私も一緒に食べた方が嬉しいよ」
急いで腕を掴み、私は一息でまくし立てます。だって、絶対そっちの方が良いです。
「でも……」
「でもじゃない!ええっと、あれ、主人命令!護衛の一環!」
あんまりそういうので縛りたくも無いですが、しょうがないです。それに早くしないと二人も待っています。
考えてみたら人に何かお願い……というか命令するのなんて初めてですね。ナギはマスクを付けた口元に手をやり、しばし考えます。
「命令とあれば仰せのままに。共に食べましょう」
「やった!」
やりました。目的達成です。同じ感じで言えばここで暮らしてくれそうですが、命令するのは気持ちが良いものではありません。
手を繋いで階段を降りていきます。ナギは身長が高いので、なんかアンバランスな二人に見えます。
「遅かったっすね師匠……ってあれ?一人増えているっすね……」
「あっ、ナギ!来たんだ!」
駆け寄ってくるアメインに「いえ、ごはんだけです」と義務的に言います。
「アメインが言ってたナギってあなたっすか~。どもども、四人分くらいはあるっすよ。こちらにどうぞっす」
「それでは、いただきます」
四人とも席に座りました。ナギは静かに手を合わせ、小さく礼をしてから食事を始めました。
一口食べた瞬間、ナギの目がぱちりと大きく開きました。その後、何度かゆっくり噛み締めるように味わっています。
「……美味しい」
静かですが、感嘆がこもった声でした。
「でしょ~?リリナ、料理すごい上手なんだよ」
私が嬉しくなってそう言うと、リリナも照れたように頬を掻いています。
「そんな、大したことないっすよ~。材料が良いだけっす」
ナギはその後も一言も喋らず、黙々と食べ続けます。
余程気に入ったのか、そのスピードは見る見るうちに速くなり、目を輝かせながら次々と料理を口に運んでいます。
「おかわりもあるっすよ、ナギさん」
「ぜひ、お願いできますか」
食べるペースは落ちず、結局ナギは用意されていた料理をほとんど食べきってしまいました。
「ナギ、そんなに食べるの珍しいんじゃない?普段、虫とか食べてるくらいだし」
「そうですね。温かい食事というのが久しぶりで……とても幸せな気持ちになります」
それだったらここに住んでくれてもいいのになあ。私はもぐもぐしながら思います。
「だったら毎日食べに来てもいいんだよ?ていうか、暮らしたらいいのに……」
「……いえ、それとこれとは別です」
ナギはまた表情を消し去り、キッパリと断ります。
あと少しで口説き落とせそうだった気がします。その私の悔しそうな顔を見て、リリナとアメインがくすくす笑います。
「ミナモ、ほんとナギのこと気に入ったんだね」
「ボクもナギがいてくれたら嬉しいけどなー」
そんな二人の会話を聞きながら、ナギも僅かに口元を緩めました。
「お気持ちだけいただきます。ですが、このような温かい食事はありがたいものです。時々、お邪魔させていただくかもしれません」
「うん、いつでも歓迎だからね!」
少しだけ手応えを感じました。今日のところはこれで良しとしましょう。
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