第2話 凄いものを貰っちゃいました。

 用意していた分もあらかた売れました。初日からこうだと期待がますます高まってしまいますね。とてつもなく有名にはならなくても良いので、ある程度は有名に……なんていう事を思いながら町の様子を見ていました。うーん、やっぱりこの景色は最高です。ここでお店をやれるというのはなんと幸せなことなんでしょうか。


「ミナモちゃーん」


 ふと聞き覚えのある声がしました。その方向を見ると、ハインさんと、後ろにはバーデンさんがいます。いつもの微笑みと仏頂面のコンビです。


「あ、ハインさん、バーデンさん。来てくれたんですね!」

 私は二人のもとに駆け寄ります。最初に会ったときはちょっと怖かったですが、色々お世話にもなりました。もう怖くありません。


「もちろんですよ。もっとも、バーデンさんは少し渋っていましたけどね」


 と、言われたバーデンさんは腕を組み、表情を崩さずに黙っています。この人は本当に愛想が無いですね。


「この人、この前あんなことが有ったから気まずいとか何とか理由をつけてたんですよ」

「おい、余計な事を言うな」

「はいはい」


 その様子を見ながら私は苦笑いをしながらほっぺたをポリポリ。仲が良いですねぇ……


「はい、ミナモちゃん。開店祝いです」


 ハインさんは私に袋に入った革製の鞄を差し出します。リボンが付いてて可愛いですし、背負えるようになってます。サイズもピッタリですね。


「ありがとうございます」

「それ、最高級品の魔法鞄です。容量は500立方メートルくらいですね」


 この世界にもメートルってあるんだ……じゃなくて。


「500立方メートル!?最高級品!?そんなもの私が貰って良いんですか!?」


 背負ったままの鞄を首を捻って見ます。いや、後ろなので見れませんでしたけれど。


「良いんですよ。本来であれば貴族付の錬金術師であってもおかしくはないんです。これくらいの待遇はあっても問題ないです」


 ちなみに、重さはそれで固定されます。サラッと言うハインさん。とてつもない物ですね……


「ちなみに金額ってどれくらいなんでしょうか……?」


 前の世界の高級品の鞄なんかも凄い値段の物がありました。これもそのレベル、いやもっとするんじゃないのかな。途端に申し訳なくなってきました。


「ミナモちゃん」

「え?」


 ハインさんが微笑んだまま、優しく呼びかけてきます。な、なんでしょうか。吸い込まれそうなその笑顔に思わずたじろいでしまいます。


「聞かない方が良いですよ」


 あっ、はい。わかりました。

 サーっと血の気が引く音が聞こえました。


「お前であればこれ以上の物は作れるはずだ。理論上はな」

「えっ、私がですか?」

「お前の能力は既に国の上澄みレベル。作成できない道理は無い」


 腕を組みながら先ほどまでの表情のままバーデンさんは言います。国の上澄みって……なんて反応したら良いかわかりません。目を伏せてただただ下を見ています。

 でもみんなの分も作れたら色々便利になるなーどうやって作るのかなー。なんて現実逃避。


「えっと……ではありがたく貰います。あ、何か食べていきますか?そちらに席もありますけど」

「そうですねー。じゃあおすすめの物を」

「かしこまりました」


 アポゴのケーキで良いかな?確かまだ有ったはずです。私はお店の中に入り、アメインに2つお願いしました。お皿に載せたケーキを、フォークと一緒におぼんに載せて持っていきます。


「はい、アポゴのケーキお2つです!」


 お二人ともフォークでケーキを切り、口に運びます。どうかな?


「うん、美味しいですよ。こんなに上等なケーキどうやって作るかわかりませんけど」


 嬉しくなってえへへ、と照れて笑っちゃいました。どうやって作るかといわれるとちょっと言いづらい点もありますけど。

 多分私が作った家電類を売ったらもっとお金稼げるんだろうけど、私はあくまでもお菓子屋さんとして過ごしたいのです。でもこの世界をもっと良くしたらそれはそれで人の役に立てるのかな?


「……美味いな」


 あ、バーデンさんも褒めてくれました。てっきりこういう物は苦手な人かと勝手に思っていましたよ。


「土産に何個か持って帰っても良いか?」


 とても気に入ってくれてます。嬉しいですねぇ。


「はい、良いですよ。もちろん!」


 にやにやした顔でバーデンさんの事を見ていたら、同じような表情でハインさんも見てました。思っていることは一緒だと思います。


「勘違いするなよ。家族に持って帰るだけだ」


 ツンデレじゃないですか。


「はいはい、わかってますよ」


 なんかこの人の扱いがわかってきた気がします。

—―


「はい、これがお持ち帰り用です……といっても隣町までだと時間がかかりますよね?」


 錬金で作った紙箱に入れてお渡しします。ちなみに作り方は薬草→ポーション→砂糖+紙です。ペットボトルを紙に出来ました。なんかもっと色々作れる気がしますが……

 ともかく、薬草万能すぎます。薬草使いですか私。


「そうですね」


 うーん、一応ナマ物なので腐る可能性ありますよね。さっきまで来ていた人、割と近場の人ばかりなのでうっかりしていました。こういう場合、前の世界だと保冷剤なんかがあった気がしますけど……あれ、保冷剤の原料って確か……私は≪錬金≫でレシピを確認します。


「ちょ、ちょっと待っててもらって良いですか?」


 私は再びお店に入り、余っていたペットボトルを取ってきます。そしてそれをお二人の目の前の机に置き、詠唱をします。周りに人も今はいないし、良いですよね?


「レンキーン!ホレイザイー!」


 私が唱えると、ペットボトルが眩く光り、机の上に袋入りの保冷剤が作成されました。そうです、私はペットボトルのプラスチックから吸水性ポリマーを作り、保冷剤にしたのです。え?原料が違う?出来てしまったんですからしょうがないじゃないですか。


「はい、これを一緒に入れておいてください。とっても冷たいので気を付けてくださいね」


 紙の箱に入れます。多分これで多少は持ちが良くなるはずです。

 お二人は不思議な顔をしてのぞき込み、バーデンさんは少し嫌そうな顔をしてます。


「相変わらずバカげた錬金だ」

「まあまあまあまあ、ミナモちゃんのことを褒めてるんですよ」

「お前、他の奴にこの錬金術見せていないだろうな?」


 私は口元に指を置き、少しだけ考えます。うーん?まあ見せたのはアメインとリリナだけですし、家族はセーフですよね?


「家族だけです」


 にこっと笑って答えました。


「なら良いんだが……」


 バーデンさんはそう言った後、何かを言い淀んでいるように口元に手をやった後、目を合わせてまた話し始めました。


「言わないつもりだったんだが、お前に護衛を付けることが決定した」

「へ?護衛?こんな普通のお菓子屋さんにですか?」

「お前のどこが普通の菓子屋だ。明らかに一線を隔している技術力、何かあったら人類の損失といっても過言ではない」

「僕とバーデンさんの独断です。何も理由なくそういうことは本当は出来ないんですが……まあ、安心してください、この村に駐在させるだけです。邪魔することはありませんので」


 皆さん大げさですね……なんか事が大きくなっています。まあお店の経営に支障が出なければ良いのですが……

 さっきから新情報ばかりです。開店初日なので、もっと落ち着いていたかったです。


「不満か?」

「不満っていうか……」


 お菓子屋さんをやりたかったただけなのに、自分でも知らない能力が自分にあって、それが世界でもとてつもない価値がある。それだから護衛を知らないうちに付けられる……うん、不満かも知れません。


「いや、不満です!次何かある時には私にも教えてください!」


 怒っちゃいました。あんまり怒ることは無いんですけどね。だってあまりにも蚊帳の外すぎるじゃないですか。酷いですよ。お盆を太ももにパンって叩いちゃいました。そのせいで今少し痛いです。


「まあ……善処しよう」


 その様子を見かねたバーデンさんが少しだけ申し訳なさそうに言ってくれます。そうそう、それで良いんです。

—―

 「また来るからねー」とハインさんが言ってお二人とも去っていきました。その後は特に大きな出来事も無く、初日は終わりました。


「疲れたー!お疲れー!」

「お疲れさまでしたっす~」


 今は三人でお掃除タイムです。外の喫食スぺースと、ショーケースの中、キッチンなどを掃除します。


「二人ともお疲れさまでした。今日は全部売れたね」

「本当にそうっすね~、びっくりするほど売れたっすよ!」


 リリナはにへっと緩んだ笑みを浮かべて、箒を持ったまま椅子にぐったりと腰掛けました。その隣でアメインも「にゃ~、疲れたけど楽しかったぁ」と大きく伸びをしています。珍しくにゃーとか言ってる。可愛い。


「お店って思ったより忙しいんだね。でも、みんなが美味しいって言ってくれるの、すごく嬉しかった」


 ちょっとだけ甘く見てました。私も掃除道具を片付けながらほっと息をつきます。キッチンの掃除を終えて、外から聞こえる海の音に耳を傾けます。


「でもさ、師匠ってほんとにすごいっすよね。錬金術って普通、あんな簡単にポンポンできるもんじゃないっすよ?」


 リリナが感心したように頬杖をつき、私をじっと見つめます。そんなに見つめられると、ちょっと照れちゃいますね。


「そうなのかなぁ? 私にはよくわかんないけど……だって、『こんなものがあればいいな』って思ったら、なんとなく頭の中にイメージとレシピが湧いて作れちゃうんだもん」

「それが凄いっすよ。普通の錬金術師なら設計図とか素材選びとかめっちゃ大変っす」


 錬金ギルドのお二人にも言われましたしね。なんだか、余計に申し訳ない気分になってきました。作り方とか公開した方が良かったりするのかな。


「ミナモが特別なんだよ!きっと神様の贈り物!」


 アメインが目をキラキラさせて言います。うーん、まあ当たってはいるかな……

 三人でそんなことを話していたら、だんだん疲れも楽に……なりはしないですが、また明日も頑張ろう!って気持ちになってきました。。


「明日も頑張ろうね。二人がいてくれて、本当に良かった」


 私は二人を見て心からそう言いました。


「こちらこそっす。師匠が師匠で本当に良かったっす~」

「私もミナモとリリナが家族で嬉しい!」


 私達は顔を見合わせて笑いました。こんな調子だったらお店も上手くいきます。そして、上手くいく予感がとってもあります。根拠は無いですが、ともかく!お店は大成功です!!

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