第6話 男はいつだって頭悪い
17,563円。
それがその日のデートで使ったお金の総額だった。
一日かけてどっかの遊園地にいったとか、一泊二日の旅行に行ったというワケではない。
放課後の数時間のあいだに、三条、四条をブラブラ歩いただけでコレだけ使うのだ。
VIVRE、BAL、など彼女にとってはパラダイスな場所だろうが、僕にとっては魔の地以外のなにものでもない。
ねぇねぇ、アレ欲しい。あ、そうだ、アレも買っていい? 今、コレが流行ってるんだよ。
そんなことをいいながら、彼女は僕の財布を握ったまま離さない。
荷物係の僕は彼女のうしろをついて回るだけである。
もし、メンズのフロアでちょっといい服を見つけて立ち止まろうものなら、
彼女「早く来てよ! そこは関係ないの!!」(怒号)
このとき僕の胸には、かつての掛川高校サッカー部伝説の男、久保義晴の言葉が去来していた。
立ち止まるな、ゴールまで走れ!!
そう、ゴールだけを視野にいれて、他のことはするな、ということなのだ。
きっと今日、この状況では僕の服などは余計なこと以外のなにものでもないのだろう。
僕は涙を拭いて、彼女のあとについて、彼女から渡される荷物を持って歩く。
紙袋が3つくらいになったあとは、化粧品コーナーで、僕は1時間くらい突っ立っていることになる。
彼女はマスカラや口紅の色選びに夢中なのだ。
こういう化粧品コーナー、きっと女の子にとっては楽しい場所なのであろうが、さて男にとってはヒマなものなのだ。
彼女「おまたせ~」
僕「何をそんなに大量に・・・」
その袋の中身をのぞいてみた。
口紅、マスカラはまだいいだろう。男としては、デートにおめかししてくれるのはうれしい。
でも、生理用ナプキンって、デート中に買うものか?
***
部屋についてからは、彼女がビデオを観ているあいだに、彼女のお気に入りのパスタをゆでる。
明太子パスタが彼女の好みだった。
白い湯気の向こうで踊るパスタを眺めながら、僕は思った。
このままではいけない。地に堕ちた名誉を挽回しなくてはいけない、と。
そう、今の僕に欠けているのは、男としての尊厳、彼氏としての畏敬、迫力なのだ。
別に、オンナは明治時代のように常に日陰の存在でいるべきだ、とか、こういう家事はオンナがするべきだ、なんていう古臭い考えをもっているワケではない。
せめて対等に!!
なんといういじらしくも切実な願いなのであろうか。
この考えは間違ってはいないはずだ。
僕は、そのパスタが茹で上がるまでの数分間に革命を決意した。
僕「あい、できたよ。・・・ねえ、今度、キミの作ったパスタも食べたいな」
彼女「イヤ。めんどうだから」
僕は毎回作ってる。
満腹になったあとはいつも彼女は僕に肩と背中、脚のマッサージをさせる。彼女はベッドに横になってテレビを見ている。
彼女「肩もむの上手だよね~」
僕「いつもやらされてるからね♪ そうそう、僕も肩と背中、もんでほしいんだけど・・・?」
彼女「イヤ。疲れるから」
僕は毎回、やっている。
どうやら『なにごとも対等に』作戦はあっけなく失敗したようだった。
次は『威厳向上作戦』だ。いつも僕が弱いのは、どうやら僕が下手におねだりすることが多いことに由来しているのかもしれない。
よし、今日は僕からはキスのおねだりはしない。
そして最後に、彼女から『ねぇ、チューしようよ』と言わせれば、僕の勝ちだ。
僕「え? しょーがないなあ。じゃあ、一回だけだぞ」(妄想シーン)
そしてさらに、オデコにキスで「あとは大人になってからな」とでもシメれば、かなりカッコイイ『大人の男』が演じれるはずだ。
数時間後。
彼女を家までクルマで送っていったとき。
僕「あの~、おやすみのキス、していい?」
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