The Strait

無邪気な棘

第1話 侵入者

黄金の夕日が静かに水平線へと潜り始める頃、巨大な船体がゆっくりと、おだやかな波を立てながら、静かに海峡を通過して行く。


本土と丸加島との間の海峡は、最も広い部分で約380km。そして、最も狭い部分では約18kmだ。


丸加海峡は、年間8万隻以上の船舶が通航しており、単純計算すると一日当り約220隻以上が通行する。


一般的なコンテナ船の航行速度は、約20~25ノット(時速約37~46km)程度だが、海峡では、事故を防止するために、大幅に速度を落とす。


いよいよ太陽が沈み、水平線だけが赤く染まり、海の支配を夜の闇に明け渡す頃、一隻のコンテナ船がゆっくりと海峡を通過し、本土の港を目指していた。


パナマ船籍の「アメージング・ウェーブ号」だ。


この船が、海峡の最も狭い箇所に差し掛かり、最低速度を保ちながら航行する頃、5隻の小型ボートが、海面を切り裂きながら、ゆっくりと船に接近した。


船の乗組員たちは、それに気付かない。やがてボートは船の横に着いた。


ボートには一隻辺り10人の黒い戦闘服と目出し帽を被った人物達が乗っていた。5隻、つまり、全部で50人だ。


アメージング・ウェーブ号は、ボートに気付かないまま航行を続ける。それに上手く着いてボートも移動する。


その姿はまるで巨大なサメにコバンザメが貼り付く様だった。


ボートの黒尽くめの人物達が、大きなアンカーの付いたワイヤーロープを専用の発射機で、船の甲板目掛けて発射した。


アンカーが船に掛かる。


すると、その人物達は、ワイヤーロープを使って、船に乗り込んで行った。


やがて海は完全に闇に支配され、ただ月だけが船を照らした。


黒尽くめの人物達は、コンテナ船の一部屋、一部屋を廻り、船の乗組員たちを、携えていたカラシニコフで脅し、船底の部屋へ連行した。


乗組員たちは、ロープで身体を拘束された。


次に侵入者達は、操舵室を占拠した。そして、船長以下、船を操作する乗組員を銃で脅し、指定した場所へ船を移動させる様に命じた。


アメージング・ウェーブ号の乗組員たちは、なすすべがなかった。


侵入者のうちの10が、ボートに戻ると、船から離れ、夜の闇の凪に消えて行った。


船には残り、 40人の賊が立て籠もりながら、乗組員を脅し、船を彼らの望む場所へゆっくりと導いた。


巨大な船が海の闇に消えて行った。それはまるで、鮮やかなイリュージョンを見るかの様だった。

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