影の国の王

Algo Lighter アルゴライター

第1話 「時の支配者」

プロローグ – 時の裂け目

静寂の中に響く、歯車の回転音。

淡い青白い光が、広大な時計仕掛けの空間を照らしていた。


天井の見えない大時計の中心には、一人の男が立っていた。

クロノスの名を持つ彼は、時を司る守護者だった。

その瞳には無限の時間が映り、白銀の髪はゆっくりと風に揺れている。


「時は、誰のものでもない。なのになぜ、人は無駄にするのだ?」


彼の手のひらには、幾千もの光の粒が浮かんでいた。

それは、過去に生きた人々の記憶。

選択の誤り、悔恨、やり直したいという願い——。


クロノスはそれらを見つめながら、静かに嘆息した。

かつて彼も、時間の流れに翻弄されたひとりだった。


第一幕 – 過去を変える力

——それは、遥か昔のこと。

クロノスは、ある小さな村で家族とともに慎ましく暮らしていた。

彼には最愛の妹がいた。


だがある日、突然の戦争が彼らの平和を奪った。

炎が舞い、悲鳴が響く夜。

妹の小さな手が彼の指から滑り落ちたとき、

彼は、何もできなかった自分を呪った。


——「あの時、時間を戻せたら……」


その強い願いが、彼に「時を操る力」を与えた。

そして彼は、「同じ悲劇を繰り返させない」ことを誓ったのだ。


だが、次第に彼の考えは変わっていく。


人々は、時間を無駄にしすぎる。

もし、すべての失敗を事前に防げたなら?

完璧な未来を作ることができるのではないか?


クロノスは、時間の流れを改変し始めた。

彼は歴史の細部を修正し、戦争を未然に防ぎ、人々の運命を操作した。

その結果、世界は「最も合理的な未来」へと向かっていった。


しかし、いつしか人々は「選択すること」をやめていた。

全てが最適化され、挑戦も、後悔も、感情すらも失われていった。


クロノスは戸惑った。


「なぜだ……なぜ、人々は喜ばない……?」


第二幕 – 歪みゆく世界

彼が未来を修正し続けるにつれ、時間の歪みが生じ始めた。

過去と未来の境界が崩れ、歴史が混ざり合い、

世界は静かに崩壊の兆しを見せ始める。


「この世界を、修正しなければならない……!」


彼は必死に修正を重ねるが、状況は悪化するばかりだった。

まるで、完璧を求めるほどに、すべてが壊れていくようだった。


そんなとき、一人の少女が彼の前に現れる。

透き通るような瞳を持つ少女——彼の亡き妹にそっくりだった。


「お兄ちゃん……もう、やめて」


その声が、凍りついた彼の心を揺さぶる。

——妹が、生きていた頃のことを思い出す。

彼女は、どんなに不完全でも、

どんなに悲しみがあっても、「今」を大切にしていた。


「私は……間違っていたのか……?」


彼は、初めて己の過ちに気づいた。


第三幕 – 時の裁き

だが、その時すでに、時間の均衡は崩壊していた。

彼の力は暴走し、世界は完全な静止へと向かっていた。


「もう、止められないのか……?」


クロノスは決意する。

自らが「時間の守護者」として誕生したのなら、

自らの手で「時間の終焉」を迎えさせるべきだと。


「時間よ——我と共に、終われ」


彼は、自らを時間の中心へと捧げた。

その瞬間、世界の歯車が逆回転を始める。

時は再び流れを取り戻し、人々は「選択できる未来」を取り戻した。


そして、クロノスの姿は、時の彼方へと消え去っていった。


——彼が望んだ「正しい未来」は、

彼がいない世界で、ゆっくりと歩みを進めていくのだった。


エピローグ – 彼の残したもの

時が戻り、人々は自由を取り戻した。

だが、どこかで誰かが、ふと時計を見つめるとき——

そこには、見えないはずの「時の守護者」の影が映ることがあるという。


彼の名を知る者はいない。

彼が残したものを語る者もいない。


しかし、彼が確かにこの世界を見守っていることを、

人々は無意識のうちに感じ取っていた。


「時間とは、選択の積み重ねだ」


彼の最後の言葉が、風に消えていった。



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次回予告

第2話「魂の裁判官」——

死者の世界を支配する裁判官エレボス。

正義を貫こうとした彼は、やがて「絶対の裁き」へと堕ちていく。

彼の裁判が招く、恐るべき結末とは——?

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