第13話 無人の可能性
「それではご覧ください。国産無人戦闘機の『式神三型』です」
先日の中国軍機の領空侵犯は一つの転換点となる。
もちろん、周辺国の艦船が領海侵入することも多々もあった。日本国は憲法改正から武力行使を際限なく行うことができ、これを快く思わない者達が力による抑圧を試みる。残念ながら、国防軍となろうと数的な不利は否めなかった。いくら自前の質と米軍の力を借りると雖もおんぶにだっこは主導権を奪われる。
したがって、日本国政府は民生品を活用した安価で高性能な国産無人兵器を模索した。漫画とアニメの世界で描かれる無人ロボットの実現を目指す。ロボットの兵器活用は忌避されがちだ。無人兵器ならば幾ら誤魔化しが通用する。兵士を消耗しない良心的な兵器を宣伝した。
「一番の特徴は無人なので小型化が可能でした。中身は機械だけですので様々な芸当を得意とします」
「たとえば、どんな?」
「まずは飛んでみましょう」
「なんて加速力!」
「そうでしょう? 馬力が違いますよ」
日本の無人兵器研究は安倍時代から秘密裏に行われる。嘗ての防衛省が本腰を入れて研究するとマスコミに探られた。民間企業を隠れ蓑にして合同で行っている。民間企業が民生品を作ることに混入させた。初期段階は農業用の農薬散布機や大型監視ドローンと称する。まるでヴェルサイユ体制下のドイツが再軍備に向けて豆戦車を農業用トラクターと言い張った。
中国の拡張政策に対抗することにウクライナ侵攻が加わる。必然的に納期短縮が求められた。それでいて大量生産できる廉価が条件になる。日本特有の過剰な要求だ。とにかく、民生品の活用を以て解決を試みる。機体は自動車メーカーが自前の技術を提供した。センサーは白物家電を生産する家電メーカーが担当する。武器やエンジンなど心臓部は自衛隊時代から担当するメーカーだ。
無人機は無人兵器の中でも激熱と謳われる。ウクライナ侵攻においてドローンが大活躍した。日本もドローンを活用すべきと自称軍事評論家のオタク共が騒ぎ立てる。素人が騒ぐ以前から活用の道を研究していた。ドローンも重要視しているが一切の人の手を介さない無人機を磨こう。
「すごい。ブルーインパルスの曲芸飛行を見たことがあります。それと同等です」
「やはり無人ですから。生身の人間が乗らなければ無茶はいくらでも」
「しかし、お高いのでは?」
「それがなんとF-15の数十分の一なんです!」
「やす~い!」
「人を育てるコストも鑑みれば破格の金額を実現しました。これで我が国の空に安寧がもたらされます。イメージしてみましたのでご覧ください」
地上波ではないテレビで放送されるような茶番は結構だ。
日本国防軍に共通運用された無人機は『式神』を名乗る。その名に恥じないコストパフォーマンスの良さが一番の特徴だ。主力戦闘機であるF-15の数十分の一という調達価格は驚異的である。ただ単純に民生品を採用しただけでなかった。工場の生産ラインに必要最小限の改修を加えれば民需から軍需と変わる。有事の際は大量生産が一層も加速した。
有人機はパイロットを育成することも重なる。機体を製造するよりも人を育てることの方が遥かに期間とコストを要した。無人機はシステムさえ組んでしまえば簡単に浸透できる。定期的にアップデートを実施すれば性能の低下を抑えられた。しかし、有人機だからこその知恵や狡猾は得られない。エース級の活躍は見込ず、良くも悪くも、お値段相応が精一杯だった。
「考えてみてください。無人戦闘機が縦横無尽に飛び回っていますよ」
「すご~い」
「これからも国防軍は日本を守って参ります」
式神は戦闘機の三型に限らずに偵察哨戒仕様の二型も存在する。日本の空を無人機が飛び回っている様子は容易に想像できた。二型の哨戒機が不審な機影をキャッチすると急報を発し、三型が現場に急行することで大幅な時間短縮を図る。有人戦闘機もスクランブル発進するが事前に無人機が抑え込むことで負担は減じられた。
「詳細は後日に改めて発表させていただきます。それまでお楽しみに~」
素人のような宣伝映像はようやく終わる。それもそのはず、国防軍の公式のため変に飾ることができなかった。無人機のような機密の塊を一般公開することはリスクがあまりにも高すぎる。マスコミに限定することも考えられるが信頼は地に落ちた。
やむなく、国防軍内部で完結せざるを得ない。
それ故の低品質な動画だが案外と好評を以て受け止められた。国内外の反応は凄まじい。公開から1日でSNSで全世界に拡散された。無人機自体は米軍が実用化して日本国防軍も自衛隊時代から一定程度は運用する。それが遂に大規模で近未来的な運用に切り替わると言うのだから大盛り上がりだ。有志達は勝手に動画を切り取るとCGでF-15やF-2が式神を連れる映像を作成する。
広報担当はニヤニヤと笑った。すべて狙い通りに進んでいる。日本国防軍が無人機を運用することが周辺国に圧力を加えた。自衛隊時代から人も火器も少ないと言われてきたが、無人兵器に注力することでハンディキャップを埋めていき、現在は空軍だが海軍と陸軍にも普及しよう。
究極的な理想は有人機を排除した無人機のみの軍隊だった。
これを目指して夢を持つ若者たちは改良に明け暮れる。
「ほい。お疲れさん」
「あ、ありがとうございます」
「それで空戦に関しては」
「難しいですね。やはり数量を活かした消耗戦を強いることが精々です。一機でエース級の活躍はなかなか」
「ロック岩崎さんの挙動を入れてもダメか。こうなったら奥の手を使うしかない」
「奥の手?」
式神三型は戦闘機仕様だが武装は20mmバルカン砲が1門のみだ。小型で軽量の機体に短距離空対空ミサイルを積むことは性能の大幅な低下を招く。20mmバルカン砲の余り物を流用した。コストパフォーマンスからも歓迎される。無人機特有の無茶苦茶な機動を繰り返して標的に接近すると20mmの雨を降らせた。仮想敵の有人機は大量の無人機に追われて消耗を強いられて遂にミスを犯したところを容赦なく撃墜する。
コンピュータのプログラムには自衛隊時代から積み重ねたデータを反映した。特に人間離れした挙動を見せつける。かのロック岩崎氏の曲芸飛行を入れ込んだ。人間が乗らなければ無茶苦茶はいくらでも犯せる。しかし、式神の本体性能はF-104にも満たなかった。人間の瞬間的な判断力やギャンブルは機械に真似できなかった。現段階では補助的な役割に徹するが吉である。
「ブレイクスルーはどこかに存在する。ちょっとゲーム会社に掛け合って来る」
「ゲーム会社? 俺たちにゲームをやれと?」
「馬鹿言うな。お前たちじゃ碌にクリアできん。ゲームの世界は非現実的であるから阿保みたいなことができる」
「恥じゃありませんか。ゲーマーなんて」
「その程度の頭じゃ無理だな。これ以上はお前を外さないといけなくなる」
責任者は機転を利かせた。有名空戦ゲームを手掛ける会社に交渉する。ゲーマーたちは常に勝利の方程式を考えた。ゲームだからこそ常軌を逸した動きが可能である。彼は式神なら再現できるのではないかと着目した。軍人どころか自衛官でも何でもないゲーマーの力を借りるなんて。そのような蔑視は捨て去るべきだ。ブレイクスルーのアイディアは日常のどこかに潜んでいる。個人的な思想信条で切り捨てては一向に進まなかった。
「俺が拾って来たデータを入れこめ。少しでも狂わせたら外すぞ」
「…」
続く
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