勇者ガチ恋娘の奮闘記。人狼族で仇敵だけど、四天王に就任したので正体を隠して恩返しします。

@a201014004

第1話 就任します

「リルウル・ライカ・リュカントロポスよ。そなたを新たなる四天王として迎え入れることが決定した」


 魔王城の一室で、そう通告された。


 城全体がそうであるように、禍々しくも華美な室内で纏められている。広い空間だが薄暗い。かつての主への印象と同じく、緊張感と圧迫感を与えてくる。


 本当ですか? ドラグニル様」


「まことだ。貴様の功績と実力は、ここにいる我々のみならず、魔王軍の皆も認めている」


 現四天王の一人、ドラグニル様の言葉を引き継ぐようにリヴァイアス様が告げて私はおもわず頭を下げた。


「ほ~~~んと、頑張ったわよね~、リルウル」


 その隣、ベルゼ様がクスクスと悪戯っぽい笑みを浮かべている。その様子に内心ムッとしながらも、「皆々様、ありがとうございます」と恭しくお礼を告げる。


 私の故郷である魔界は、数年前、魔王様による大陸へ侵攻を開始した。その結果として魔族の長である魔王様は勇者によって討たれた。その後も人族、エルフ族、ドワーフ族による連合軍は度々魔王軍と交戦。その被害と影響をモロに受けた。


 残された幹部である四天王の皆々様は、現在の魔界統治を行っている。内政や経済、流通、農業の問題解決に奔走していた。私は魔王軍に入隊して以来、魔王軍再興と統治に携わっていたから、今回の抜擢に繋がったのだろう。


 しかし、よく立て直せたな、魔界。


 戦争で大勢が死んで人手不足になっていたし、そもそも頭脳労働できる人少なかった。物資も土地も限りなく減少していたから、今思い返しても不思議におもえてならない。


「細やかな手続きは後にして、まずはかけたまえ。新たなる同胞よ」

「はい。失礼いたします」


 立ち上がり、自分の席にむかう。一言もまだ口にしていない海魔族のリヴァイアス様は、新たに加わる私を推し量るような視線を送ってくる。


 他の二人も同様だ。淫魔族のベルゼ様。竜族のドラグニル様。四天王の皆々様に視線を送られると、ブルリと身が震えて中々腰をかけることができない。


 人狼族の特徴である頭頂部から生えている耳と、長い尾が脈動しているのを感じるほどだ。


 三人は今の私が、恐怖しているとおもっているだろう。光栄だとか名誉だとか、感動に打ち震えているのだと。でも、そんな理由じゃない。


 昂ぶっていたのだ。


 元々魔王軍に入隊したのは、四天王になるためだった。最終的な目標を達成するためだけど、感慨が深くなってしまう。


 夢の実現に近づいている。苦労をしてきた甲斐があった。あらゆる感情がない交ぜになってそんな単純な感情が沸き上がる。


 遂に来た・・・・・・ここまで・・・・・・!


 このときを待っていた私には、緊張以上に熱い昂ぶりがこみあげてくるのだ。


 歓喜に近い感動に支配されていた私は、暫くしてからゆっくりと席についた。


「では、はじめるとしよう」


 私の様子を見守っていたリヴァイアス様の言葉が合図になって、そのまま会議に移行する。四天王の会議には、補佐役として何度か参加しているから知っている。いくつか問題があったが、解決策はすぐに出されたのでいつもと変わりなく、つつがなく終わった。


「では、最後に連合軍についてだが・・・・・・」

「それについては、私のほうから提案したいことがあります」

「ん~~? な~に~? 就任してすぐになんて、やる気漲ってんじゃん」


 ベルゼ様の台詞を窘めたリヴァイアス様が、先を促す。ドラグニル様も厳めしい表情で見つめてくる。


「勇者の身辺調査をするべきではないかと」


 ピシリと、空気が変わった。四天王には一様に驚愕と息を呑む気配がする。


「理由を、きこうか?」

「今後、連合軍と再び戦争状態になったことを考慮した結論です」


 そのまま私は一同を見回して話す。


 侵略失敗以来、連合軍とは小競り合いが続いていた。今は落ち着いているけれど、またいつ争いがおこるかわからない。もしも今攻めかかられるか、そしてこちらからまた戦争をしかけるのはいつになるのか。


 それを含めた上で、最重要人物である勇者の現在を調査するべきだと。


「でも、なんで勇者なの? 二年前から勇者の行方がわかっていないというのに」

「だからこそ、です」


 勇者は、魔王を討ち滅ぼした存在。人族にとっては英雄だ。連合軍の要である王族によって、魔王と戦う使命を与えられていた。戦争中での実力と功績が称えられ、連合軍でも相当重要な位置にいる。


 そんな勇者が今どこでなにをしているのか。知ることができれば様々なことが可能だ。いざというときに先手を打つことができるし、自ずと連合軍や人族の動向を知ることができるだろう。勇者は連合軍でも、人族の王族や軍上層部と関わりがあるのだから。


 それに、いざとなれば暗殺もすれば脅威を事前に取り除くこともできる。


「ふむ、成程な。場合によっては可能かもしれんが」

「ええい、まどろっこしい! そんなちまちましたことせずこちらから攻めこめばいいだろう! そうすりゃ勇者だろうと誰だろうと現れるだろうが!」

「我が軍に、まだそんな余裕はないと何度も言っているだろう・・・・・・脳筋め」

「なんだと!? この臆病者め!」

「はぁ・・・・・・またはじまった・・・・・・でも実際のところ、やりたい人いないんじゃない? 相手はあの勇者よ?」


 ぎゃあぎゃあと喚いているリヴァアス様とドラグニル様を呆れながら眺めるベルゼ様。彼女は頬杖をつきながら胡乱な目で続けて尋ねる。


 彼女の危惧はわかる。勇者は魔族の天敵のような存在だ。その恐ろしさと強さは語り草になっていて、魔界では子供でも知っている。最も恐ろしい敵だ。泣く子はもっと泣き叫び、大の大人でも恐怖で失禁するといわれている。


 魔王軍でも勇者と遭遇したり、戦ったりした者はいるだろう。いくら仇敵とはいえ、自分からそんな勇者に近づきたいという者は、いない。


「ご心配なく。それについても考えがあります」

「へぇ~~。どんな?」

「私が参ります」

「・・・・・・・・・へ?」

「私です。私自身が勇者を調査して参ります」

「は、はああああああ!?」


 絶叫。ポッカーン。びっくら仰天。ベルゼ様から始まった四天王の反応は、留まることを知らない。けれど、私はどこ吹く風。想定内なので、余裕で受け流す。


「今なんと言った?!」

「どうしてそなたが自ら!? なにかあったらどうする!?」

「無理よ無理無理!」


 うん、こうなるよね。


 彼女、そして彼らの声を聞きながら内心で二ヤリと笑う。


「大丈夫です。秘策があります」

「ひ、秘策?」

「ええ。ご安心ください。四天王に就任したのは伊達ではないということをお見せします」


 それから長時間。彼らを説得することに費やした。しかし、私は少しも苦ではなかった。


 勇者を調査しにいく。それこそが、私の目的なのだから。


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