宇宙掃除屋ーAnytaー

aqri

宇宙のカグヤ姫

1 掃除屋の二人

「起きろや!」


 目覚ましよりも大きな声。デルは眉間にシワを寄せながらゆっくりと目を開いた。


「仕事だ仕事!」


 必死の形相で言ってくるのは仕事の相棒。親子ほど年の離れた少年だが、仕事を取り仕切っているのは彼の方である。


「内容次第だ」

「選んでいられる状況じゃねえわ! 燃料なくなる寸前だよクソ馬鹿! あれほど足りなくなるって言ったのに!」


 二人が乗る小型宇宙船ははっきりとエンプティ警告を発している。悲しいかな、現在大宇宙のど真ん中。どうすることもできない。


 今や職業は個人事業主の時代だ。定職につけるのは生まれも育ちもエリートのみ。その他はゴミ漁りのようなことしかできない。その中でも誰でもできて、生活できるくらいには稼げて、ついでに死と隣り合わせの仕事といえば宇宙ゴミのリサイクルである。


 宇宙には旧世代たちが巻き散らしてきたゴミがそこら中に漂っている。古今東西あらゆるもの、機械からテクノロジー、本当によくわからないものまで。

 そういった物を回収して売りさばく、宇宙の掃除屋と呼ばれるフリーランスが今やスタンダードな仕事だ。ライバルが多くても廃業することはない、宇宙ゴミは本当に無限にあるからだ。ただし価値のある物はほぼ見つからないが。

 近頃仕事がなくて極貧生活をしていたが、とうとう燃料も底をつきそうなデルとアニタのコンビ。中年男性と親子ほど年の離れた少年だ。


「企業依頼だ、新しい事業のために買い取った施設をきれいにしたいんだとさ」


 送られてきた資料に目を通しながら、デルは大きなあくびをした。


「気合を入れる必要があるな」

「いつも入れろよそこは」

「企業案件は危険がつきものだ。昨今は場所の奪い合いだ、あっさり買えたのは問題があるからこそ、だな。企業か場所か両方かは知らんが」


 デルと組むようになってまだ半年。その辺の裏事情などは、まだアニタにはわからない。

 誰でもできて、そこそこ金を稼げる。ここまではいいが、最も命の危険にさらされている理由はここだ。ライバルが多くて争いが起きるということではない。宇宙ゴミは人体に有害な物質がどれだけはびこっているかわからないからだ。


 放射線、ガス、重金属、細菌兵器、はたまた旧世代が作り出した資料が残っていない怪しげな燃料。文字通りのブラックボックスと化している。

 どの種類の防具服を着て、どんな道具だったら使って大丈夫なのか慎重に選ばなければならない。可燃物質を含んでいたらバーナーは使えないし、気体と混ざって化学反応を起こすものが含まれていることは多々ある。呼吸の循環を防護服の中だけで完結させなければいけない。


 ゴミ漁りといっても専門的知識は必要である。それらは結局経験して積み重ねていくしかないのだ。

 掃除屋の死者は後を絶たない。仕事を軽んじた者はだいたい事故に巻き込まれて命を落とす。そして残骸となった宇宙船は、これまた別の掃除屋が拾っていくのだ。


「研究実験施設か。完全に壊れていて下手に再起動などしないことを願うばかりだ」

「なんで? システム生きてる方が楽じゃん」

「ほう、鬼ごっこをまたやりたいらしいな」

「どうか爆発事故があって半分ぐらい吹っ飛んでますように」


 制御不能となった防衛システムロボット五十台に追いかけ回されたのは二ヶ月前だ。こういう危険もついてくるのである。知力、経験はもちろん体力が必須。デル曰く「人が生きるために標準装備されたことしかいらん、楽だ」とのことだが。


 宇宙船が高速運航モードとなった。船体に特殊な電磁気力のバリアを張って超高速移動をする。これがなければゴミとの衝突事故で自分たちがゴミの仲間入りだ。


「行くぞ」

「うん!」


 仕事を覚えてきて楽しいのと、やっとこれで極貧生活から抜け出せる嬉しさからアニタは元気に返事をした。



「でっけえ!」


 到着してモニターの映像を確認しアニタは叫ぶ。目的の施設が大きいという意味ではない。施設と言うよりも三階建ての建物位の大きさしかなかった。それは良いのだが。


「無機物の分際で簪とは生意気な」

「カンザシ? なにそれ?」

「私が日頃激推しをしている旧世代の母星。そこに存在した取るに足らない激狭島国の、特別貴重でもない道具の一つだ」

「激推ししてるのに貶すなよ。その簪っていうのは花なのか」

「形は様々だが。長い髪を巻きつけてギチギチに捻って、頭にぶっ刺して使う恐ろしい暗器だ。死者の頭に美しい花が咲いているように見える」

「な、なるほど?」

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