ある雪の日

@Talkstand_bungeibu

第1話 龍真の場合

「ゆきー、ゆきだよー。おとうさん、あそぼー」

「とうちゃん、ゆきがっせん、ゆきがっせんー」

「悠真、銀牙、その前にお店の前の雪かきしなくちゃな」

「えー、あそぼーよ、おとうさんー」

「ゆきかきなんてあとまわしでいーじゃん」


2人の息子にわちゃわちゃと絡まれながら、白い長髪の男、龍真が苦笑を浮かべる。雪の少ない温暖な地である龍杜市も、何年に1回かは積雪がある。とはいっても今年のように、1m近く積もることは稀で、TVの地方ニュースでも50年に1度の降雪だと言っていた。そんな状況だから、家の前だけでも雪掻きをしてしまわなければと思い、朝早くからスコップと慌てて買ってきたママさんダンプを手に、玄関前の雪をどけ始めたのだが、珍しく早起きな息子2人に見つかって絡まれ始めた次第だ。


「玄関の前開けておかなくちゃ、お客さん来れないよー。お客さん来れなかったら、品物売れなくてうち貧乏になっちゃうんだけどなぁ…」

「おとうさん、だいきおじさんがふだんからうれてないけどだいじょうぶっていってたよー」

「とうちゃん、だいきおじさんはうらかぎょうでおかねたくさんあるからだいじょうぶっていってたよー」

「あの野郎、うちの子になに教えてやがる・・・」


子供の邪気のない言葉と、それを教えた大希へのたっぷりの悪意に頭を抱えそうになりながら龍真は唸る。すると、店の玄関が開き、2人の女性が声をかけてきた。


「龍真くん、雪掻きはこのくらいでいいですよ」

「龍真様、充分玄関前は空いてると思いいますわ」


1人は亜麻色の髪のやや童顔な美女、剣杜悠里。もう1人は銀髪の大人の女性を感じさせる美女、剣杜白幽。6年前のテロの功績に日本政府に2人の妻をめとることを認めさせた、2人は龍真の妻だ。

2人の妻にそう言われて、玄関の方を見やる。確かに玄関の人が入る分の雪は奇麗にどけられている。だが、車が通るにはどうだろうか? 雪の壁のせいで車のすれ違いが難しそうに感じる。


「んー、車の通りのことを考えるともう少しどけておきたいから、悠里と白幽は子供たちの相手をしてやっててくれないか。幸い雪は嫌になるくらいあるし、かまくらを作ってみるのはどうだい?」

「おー、おとうさんいいアイディア。悠真つくってみたい」

「とうちゃん、銀牙も、銀牙もー」


子供たちはもうそのつもりだ。ぴょんぴょん跳ねてアピールする。龍真はスコップに軽く寄りかかると、2人の息子に言った。


「よーし、父さんも雪掻き大急ぎで終わらせてかまくらづくり手伝うから、先に道場まわりの雪を山にしていくように」

「「おー」」


子供2人は勢いよく返事をすると、道場のある中庭に向かって駆けだしていく。


「じゃあ、龍真くん、私たちは子供たちの手伝い、先にしてるね」

「5人が入れるくらいの大きいかまくらができるように準備しますから、待っていてください」


悠里と白幽もそういって、子供の後を追って中庭へと向かっていった。1人残った龍真は、やれやれと言わんばかりに息を整えると、スコップを突きの要領でくりだし、一息に雪の塊を立方体に切り分ける。そして、切り分けた雪を片っ端から邪魔にならないところにどけ始めた。子供との約束の為、急いで片付ける必要がある。多少、武術の要領で体を動かしても罰は当たるまい。そして、ふと頭の中に大希の事が浮かんだ。


(あいつ、雪かきしてるんだろうな? 美風ちゃんたちは猫人だから、こう寒いと動けないんじゃないだろうか。心配だ・・・)

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