底の底の底のミルフィーユ

第1話

プールの底で、膝を抱えて座りたくなる。

そんな夜。

ここは冷たくて寒い。だから、人のぬくもりが欲しい。


たまたま二人きりになって、そういう雰囲気になったから、そうなった。

それだけ。

なんてことないと自分に言い聞かせる。


理由なんてない。

誰かと一緒にいたい。

誰かと一緒にいる喜びを知っている。


人間が寂しさを抱える以上、誰だって失敗してしまうことはある。

……はずだ。


朝帰りのワンルームは蒸し風呂状態。

夏は苦手だ。

汗をかくから。過ぎ去った一夜を思い出すきっかけになるから。


部屋の床に大の字に寝そべり目をつむる。

全身が暑さの底に落ちていく。

エアコン、つけなきゃ。

部屋着に着替えて、ごはんを食べて、洗濯機を回して、録画したドラマを見る。

人間はやることがいっぱいだ。


こんなとき、ミルフィーユになりたくなる。

ずっと重なっていられるし、イチゴやクリームを乗せてもらえる。

気に入らなければ、フォークで刺せばいい。

あっという間にバラバラだ。

それでも、おいしさは変わらないから、きっと最後まで食べてもらえる。


ミルフィーユはずるい。

私だって、最後までおいしく食べられたい。

目が覚めたら逃げるのはひきょうだ。

悪いことをしたみたいじゃないか。


底にいるときは二人がいい。

やっぱり一人は寂しい。


スマホが鳴る。

ひきょう者の名前が表示されている。

腕が伸びて、スマホを取る。

迷わなかった。


「……もしもし」


出なければいいのに、出てしまうから、私も大概だなと思う。

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