第18話 小さな決意
先に校庭に入ったのは
するとハンサム芦原が職員室の窓から顔を出したが、いつもと様子が違う。彩佳が「今日は私が勝ちましたあ」と声をかけても「ん。んんっ」と言ってすぐに首を引っ込めた。きょとんとしながら馬を繋いで教室に入ると、補講の前に教師から一言あった。
「昨日がら、
「家の人は、山さ山菜取りさ行ったって言ってらすけ、たぶん山さ分け入ったんだべな」
先生は淡々と言葉を続ける。
「この辺では、熊の出没情報もあるすけ。念のため、むやみに野山さ入らねように。近く通ることあったら、わがってるべけど、熊鈴とかラジオ、忘れねように。以上」
補講の最中でも、彩佳にはその行方不明事件が気がかりだった。もしかして熊に襲われたんだろうか。いや、まだそうと決まった訳じゃない。でもお年寄りなんだからその山には慣れていて遭難するはずはない。それにお年寄りなんだから怪我をしたり急な病気になることだってあるはずだ。だけど、だけど…… 彩佳の頭の中では考えたくもないことばかりが浮かんでは消えていた。
補講を終えると彩佳と章太は乗馬下校する。章太もお年寄りの行方不明事件を気にしているのか言葉少なだ。分かれ道に着いたところで、章太ははっきりした声で、何かを決意したかのように彩佳に声をかける。
「今日、これがら柔道の稽古さ行ってもいいべが?」
「今日? これから?」
章太は深くうなずく。
「お父さんの予定次第だけど……」
「無理だば、空打ぢ込みとか チューブ借りでやっから、そいでも いいべが?」
「いいよ、いいけどなんで? 最近全然やってなかったよね」
「んだ、ちょっとな、色々思うごどあってさ」
「思うところ……」
「ああ。やっぱ、つえぐねぇど 誰のごども守られねぇがらな」
「ふーん。誰か、守るんだ。何から? 誰を?」
「そんなごど、どうだっていいべ。行ってもいいのが?」
「あ、うん、そりゃもちろん」
「ありがど」
章太の真剣な目に彩佳は驚く。章太のそんな目を彩佳は見たことがなかった。
「その守りたいものっての、守れるといいね」
「ああ」
章太は少し不機嫌そうに答えた。その顔は少し照れてるようにも見え、耳も少しだけ赤くなっていた。
【次回】
第19話 守りたいもの
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