朝の情報番組の星座占いに命運を左右される異世界転生
ながもちフィル
第1話 占い1位な異世界転生
カケルは息を切らしながら森の中を走っていた。
背後からは、小さいワニほどの大きさの双首トカゲが猛烈な勢いで追いかけてくる。異世界に転生してまだ日が浅い彼にとって、こんなモンスターとの遭遇は想定外だった。
手に持ったカゴには、苦労して集めた薬草やポーションのビンが詰まっている。
それらを投げつけてトカゲを足止めしようとするが、トカゲは薬草が舞い散る中でも、ビンが割れる衝撃も意に介さず突進を続ける。
「全然1位じゃないだろー!」カケルは叫びながら走った。
今朝見た「あさモニ」の星座占いでは、彼の星座である乙女座が1位と出ていたのに。
だが、この状況はどう見ても最下位レベルだ。
占いを信じた自分が恨めしい。
ついに追いつかれ組み伏せられてしまう。
慌てて腰に差していたナイフを抜く。
それは草木を刈るための簡素なもので、戦闘用ではない。
案の定、一振りしただけで刃先がポキリと折れてしまった。
それでもカケルは諦めず、折れたナイフを振り回す。
すると、運良くトカゲの指先と腹の柔らかい部分に先端がかすり、わずかに血が滲んだ。
トカゲが一瞬ひるむ。
その隙を逃さず、カケルは背負っていたバッグを丸ごと投げつけた。
中には採取に必要な道具などが詰まっていたが、そんなことを気にしている余裕はない。
バッグがトカゲの頭に直撃し、動きが鈍った瞬間を見計らって、彼は全力で逃げ出した。
息も絶え絶え、森の外へと走り抜ける。
カケルは命からがらギルドへ辿り着いた。
「この依頼は危険じゃないか!」と息を切らし、受付に駆け寄り叫ぶ。
受付嬢のミリアは冷静に答えた。
「野盗にでも襲われたんですか?」
「違う!見たこともないトカゲに襲われて、ナイフは折れるし、鎧はボロボロ、アイテムやバッグを投げつけて何もなくなった!補償してくれ!」
受付のミリアは淡々と返す。
「そういう時もありますよ。補償はできませんが、貸付なら可能です。」
ミリアの後ろから鑑定士のガレンが口を挟んだ。
「ピーピーうるせぇぞ。モンスターと戦ったなら、戦利品の一つもないのか?」
カケルは苛立ちを抑えきれず、「勝てもしないし、ナイフも折れるようなモンスターから戦利品なんて、この体のどこにあると思うんだよ!」と体を叩いて何もないことを示した。
すると、ボロボロの鎧に違和感が。
よく見ると、さっきのトカゲの爪の先が刺さっている。
「あっ、なんだこれ?」と受付テーブルに置く。
「これは…」鑑定士のガレンが目を凝らす。
カケルが期待を込めて聞く。
「もしかしてレアアイテム?」
「レアではないが、お前さん、どこまで採取に行ったんだ?」
「どこまでって、街を出てすぐ側の森の入口ですけど…」
ガレンはミリアに「ちょっとこいつ借りるぞ」と言い、階段を上がりカケルをギルド長の元へ連れて行く。
ガレンは「入るぞ」とノックもせずに扉を開ける。
ギルド長のゼノスが「どうした?」
「厄介なことになったかもしれん。何が起きたか説明してやれ」とガレンはカケルに説明を促す。
カケルは威圧感しかないギルド長に緊張しながらも端的に話す。
「森の浅い所で薬草採取してたら、双首のトカゲに襲われて命からがら逃げてきました。証拠はこれです」と爪の欠片を机に置く。
ガレンが続ける。「本物の双首トカゲの爪だ。街の近くまで来てるってことは、山から降り始めてるのかも。準備だけはしておいた方がいい。被害がなくて良かった」
カケルは小さく「あのー、僕は装備の一式を失ったんですけど…」と呟く。
ゼノスが頷く。
「そうだな。お前が帰って来なかったら準備もできなかったかもしれん。情報料として、これで装備を新調しておけ」と胸元から金貨1枚を渡す。
「あっ、ありがとうございます!」ヘコヘコと礼をして金貨を受け取る。
前より良い装備を揃えられるし、当面の食事と宿泊に困らない額だ。
ギルド長のゼノスが「依頼もギルド都合のキャンセル扱いとしておく。あとは我々で話があるから、もう帰っていい」
カケルは「失礼しました~」といそいそ部屋を出た。
階段を降りると受付のミリアが「何かあったんですか?」と近づいてくる。
「わかんないけど、補償してもらえたし、依頼もそっちの都合でキャンセルだって」
「良かったですね」とミリア。
さっきまで冷たかったクセに、とカケルは内心思う。
ギルドを出て、装備を揃えに向かった。
…この世界に飛ばされて約1ヶ月
僕の知ってる異世界転生は特別能力を授かるはずなのに
能力らしい能力といえば、現実世界で毎朝見ていた「あさモニ」の星座占いを異世界でも見られるってことだけだ。
朝7時59分になると突然画面が現れて今日の星座占いが表示される。
そして、どうやら占いの順位と内容に影響を受けるようだ。
ちなみに今朝の占いは「1位 乙女座 大きな収穫あり」だった。
ただ、確かに僕にとっては大きな収穫だったかもしれない。
カケルは手の中の金貨をギュッとして街へ繰り出していった。
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