あと一歩近ければ。

@tkn0214

その子はあの子が好き

「え!好きな子ぉ!?おまえが!?」


そんな声が教室に響き渡ったのはもう三週間ほど前

どうやら学年一モテ男の一ノ瀬くんに好きな子ができたらしく、事情を詳しく知る者の間では今日で卒業というのに未だその話で持ち切りだ

彼には女っけ一つなくて助かる~と思っていた私からすればそれはまさに青天の霹靂で。相手の女の人を想像してはへこむという愚かなことをするのが日課になってしまっている

彼を目で追うようになったのは二年前。好きだと自覚したのは一年前。きっかけは些細な事で、卒業したらもう会えないかもしれないから思い切って告白でもしちゃおうかなとか考えて妄想に浸っていた私にこの話は刺激が強すぎた


(今更何しても遅い、よね)


そう、なにもかも遅すぎる。

辛いけど現実を受け止めなきゃだめだよねと、表向きの私が言う。でも私は愚か者だからもしかしたら私のことかも…と考えてしまう

考えて妄想するくらい許して、と縋るようにひとり胸を痛める


「あれ、浮かない顔してる。俺と離れるのがそんな寂しい?」


「わっ、びっくりした!急に話しかけないでよ、心臓止まるかとおもった~」


急に目の前に現れた加賀美くん。

お調子者で女たらしだし一ノ瀬くんとは真逆な性格で、どちらかというと苦手な人

それでもなにかと話しかけてくるから仲はいいほうだ

モテモテなのだからもっと可愛い子とつるめばいいのにそんな話をしてもはぐらかされるばかりで、埒が明かない


「ふふ、そん時は俺が人工呼吸したげる~」


そういって少し目を細めるから思わずきゅんとしてしまう

いやいや、ありえないし!と強がるようにそっぽをむいた


「てかもう卒業だね、俺寂しいなぁ?」


「ね~、みんなと離れがたいや」


泣きそうになる私をよそにそだねーと適当に相槌うち、スマホをいじる加賀美くんにこんにゃろ~!と叫びたくなる気持ちを抑えてなにしてんの?と聞いた


「ん~?いや、べっつに。俺呼び出されたからいくね~」


「お、おう…いってらっしゃい」


急に来たとおもったらすぐどっかいちゃった加賀美くん

変な奴、と思いながら彼を見送ったた


「あの、今いいですか」


「へ、え、っと、大丈夫。だよ」


加賀美くんのいった方を見つめていると背後から大好きな声がした

もしかして告白!?いやいや、私に興味ないよね。どうせアルバム書いてとかに決まってる…

そう自分を落ち着かせて彼がいるほうに振り返った

そこには珍しく髪をセットして頬を紅くした大好きな彼がいた


「勤勉で真面目なところがずっとすきでした」


ちゃんと授業受けてきてよかった!と心から思った

生きててよかった!と腹の底から思った


ーーーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーー


「結局告白できなかったんだ?」


大男が鼻水と涙で顔をぐちょぐちょにしているというのに嘲笑うように話しかけてくる女。幼馴染だけど犬猿の仲で相容れない


「ぅっせ…」


これだから一人でいたかったのに。どこから嗅ぎ付けたんだか

その根性だけは尊敬だ


「お前だってできなかったくせに…」


恨めしく見上げてみると知らない顔があった

紅く染まった頬に風で揺れる三つ編み


「だって言っても無駄だもん」


震えた声の言葉に傷つけた、さすがにダメだったかと咄嗟に振り返って謝罪の言葉を口にした

柔らかくてちょっと分厚い熱を孕んだ唇が頬に当たる


「んーん、これでおあいこね」


あの子はその子が好きで、その子はあいつが好き。

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