2007/4~10

 青春は……始まったはずだった。


 3回目のデート。

 夕方、彼女の自宅。

 僕は告白した。


 彼女は苦笑いを浮かべた。


 「蒼くんは、そういうのじゃ……ないかな」


 「そっか……ありがとう。正直に答えてくれて……」


 「ごめん……ね」


 「これからも友達ではいてくれる?」


 「もちろん」


 「そっか。またね」


 僕は彼女の部屋をあとにし、電車で家へ向かう。

 でも、思考は停止したまま。


 なにが悪かったのかな……。

 僕なりによくやったと思うのに……。


 年下だから?

 いい人どまり?


 結局、理由なんて僕にはわからない。

 彼女にしか、もちあわせていないから。


 僕の青春は、まだ終わりにしたくない。


 ◇


 2度目の告白をした。


 あれからまた何度かデートして、関係は悪くない。

 でも、彼女は苦笑いを浮かべた。


 「蒼くんのそういうところ、蒼くんらしいと思う。でも、彼氏には思えない。ごめんね」


 「そっか。まただめか……。良ければ教えて? どうしてだめなの?」


 「蒼くんといると、とても落ち着ける。素の自分でいられて、とても楽。でも……私が求めてる恋愛は、落ち着きじゃないと思う。恋愛って、もっとトキメクものだと思うから……」


 そっか。最初からお互い求めているものが違ったんだなって。


 僕にとっての恋愛は癒しで……、彼女にとって恋愛はトキメキだった。

 これじゃ、いくら頑張ってもだめなはずだ。


 僕の恋は終わったのだろうか。


 「碧。フラれたけど大好きだよ。初めて会った時から、一目惚れだった。だからせめて、僕のことを覚えていてくれると嬉しいな。またね」


 ◇


 僕は大学受験に向けて、また彼女は大学生活で……お互いに時間を使うようになった。

 連絡もあまり取らなくなった。


 そのかわり、彼女のHPの日記でなんとなく様子は知っている。

 楽しそうに大学生活を送っているようだし、バイトも始めたらしい。


 未練がましいにもほどがあるな、と思いつつも日記を見るのをやめることはできなかった。


 秋になった。

 受験勉強は難しかった。いくら頑張っても成績が上がらない。


 昔から、暗記ものは大の苦手。

 古文なんて、なんの役に立つのだろうか。

 英語なんて、将来使うのだろうか。

 化学なんて、数学なんて……とにかく全部の成績が悪い。


 受験勉強を理由に高2の新人戦で引退して、それから頑張っているのに……。

 これじゃ、あの顧問に言われたとおりになってしまう。


 「途中で投げ出す人間が、受験を乗り越えられるはずがない」


 指導室で説教を受けたのが懐かしい。

 いや、腹立たしい思い出だ。


 なにせ、最初はそれっぽいことを言われた。


 「いままで、部活の仲間と頑張ってきたじゃないか」

 「先輩の中山だって、3年まで両立して志望校に合格した」


 けれど、最後は何を生徒に言っているのかわからなかった。


 「山口が抜けることで、部員の士気が下がる。どうするつもりだ」

 「ただでさえ少ない部員数なのに、これ以上減ったら部費の割り当てが下がってしまう。責任を感じないか。仲間に申し訳ないと思わないか」


 あの顧問にとっては、部員は部費の確保要因だったわけだ。


 そんな説教を受けてまで、部活を辞めたのに、結果は成績が伸びていない。


 もともと成績が悪いのに、それなのに伸びないのは要領が悪いのだろう。


 気分転換に遊ぶか。


 久しぶりに碧と連絡をとり、遊びのお誘いをした。

 ほかに遊べる友達なんていないからだ。


 返事はすぐ来た。


 「久しぶりだね。うん、いいよ。あそぼー(^^)/」


 返信が来ただけで、嬉しくなってしまう。

 あぁ、まだ好きなんだなって思ってしまう。


 ◇


 久しぶりのデートも、いつも通り過ごした。


 イオンに行って、いろいろなお店をぶらぶら見て、ご飯を食べて、またぶらぶらと……。


 そして、最後に彼女の部屋に行っておしゃべりをする。


 けれど、彼女の部屋は物が増えていた。


 彼氏がいるそうだ。

 まぁ、そうだよなとも思う。


 けれど……、


 「このぬいぐるみ……彼氏と喧嘩したときに千切られちゃったんだ……」


 悲しい声でつぶやいた彼女は、なんなんだろうか。


 それが、彼女の求めたトキメキの果てなのだろうか。


 僕にはわからなかった。

 けれど、「どうして好きなの?」とも聞けなかった。


 だから、最後の告白をした。


 もちろん、彼氏がいるのだからフラれるのはわかっていた。

 僕の中のけじめのつもりで告白をした。


 「まだ、好きでいてくれてるんだ……ありがとう。でも、ごめんね」


 「わかってたよ。でも、3回もフラれたら、さすがにもう未練はないや。付き合ってくれてありがとう」


 「そぅ……」


 「これからも受験勉強頑張らなきゃな~」


 「うん。頑張って。蒼くんならできるよ」


 「ありがとう。でも、なにかあって助けが必要な時は気軽に呼んでね」


 「そうする」


 「じゃあ、ばいばい」


 「ばいばい」


 これで完全に、僕の2回目の恋は終わった。


 1回目の恋は、罪悪感と自己嫌悪を……。

 2回目の恋は、価値観の違いを……。

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