1つしかないエレベーター

さてこのマンション、やけに年季が入っている。

エントランスが小綺麗で、部屋に2人で暮らすのに十分なプライベートがあること、そして何よりも職場へのアクセスが決め手となり一も二もなく契約したが、大きな欠陥があることを2人は見逃していた。

そう、このマンションにはエレベーターが一つしかない。

これが何を意味するかおわかりだろうか。

たまたまエレベーター前で気の合わない住人と鉢合わせた時はロビーで自販機と睨み合い時間潰しをして次の便を待つか、階段で行くしかない。

だが先に自分が呼んでおいたエレベーターをみすみすと譲るのも気に食わないし、かといって仕事終わりの重い体を引きずって階段を使う気にもならない。だから結局、顔に引きつった笑顔を貼り付けて乗り合わせることになる。

同じ場所に色んな人間が集まれば反りの合わない者もいるのは当然である。中でも最たる例が、喧嘩中の同居人というわけだ。

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密室の2人 長谷川 千秋 @althaia

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