第10話 ~僕と海底の国オルテンシア~
海底の国オルテンシアは大きな水族館と表現することができる。
海の中の洞窟だというのに、太陽のような優しい光が差し込み、街のいたるところに水中トンネルがある。それらは人々の生活を邪魔しない程度に通っている。
水中トンネルはある場所では螺旋状になっていたり、ちがう場所では綺麗なアーチを描いていたり、それらは中央広場の大きな水槽につながっている。
そのトンネルの中を魚やタコなどいろんな生物は泳いでいる。
(ここが…オルテンシアかぁ…)
小規模だけど建物や交通機関、畑や池、さらには公園までもあった。
緑もほどほどにある。街路樹の向こうには人が歩いている。
僕らの住んでいるところと違うところは天井が低いというところだ。
どこまでも広がる空…ではなく、天井はわりと近い。
(野球ドームのなかみたいだ…)
天井が近いというその造りが、ここが海底だということを思い出させてくれる。
乗り物はモノレールのようなものがいくつかある。
「空気が…良いね」
都会と田舎の両方知っているからこそ、僕はすぐに気づくことができた。
「そうね。限られた空間での生活だから、排気ガスを出すような乗り物は…ね」
オルテンシアに着いて安心したのか、カノンさんは少しずつ口数が増えてきた。
石造りのアーチ橋から川を見下ろすと、一艘の船が通過していった。
「水族館みたいだ」
思わず声を漏らした。一日中、この水中トンネルを見ても飽きなさそうだ。
「気に入ったかしら?」
「うん。すごいね。オルテンシアって。オシャレな水中トンネルだね」
「気に入ってもらえてなによりね…でも悪さをしないほうがいいわよ?」
「なんで?」
「あの水中トンネルはね…生物の育成が主な目的だけど…他にも治安維持が目的なの。あの水槽やトンネルの中には魚のかたちを模したカメラが一緒に泳いでいるの。あんまりハメを外しすぎると…わかるでしょ?」
「どのサカナが監視カメラなの?」
「それを言ったら意味がないでしょ?」
バカな質問をしてしまった。
(つまり、いろんな監視カメラが僕を見てるワケか…)
「あと監視カメラが、必ずしも魚とは限らないわよ」
カノンさんはクギを刺すように僕に言った。でも…子どもたちが水中トンネルを見て喜んでいる。それを見て、一人でつぶやくように言った。
「でも…子どもが喜ぶわ…」
彼女は少し微笑んだように見えた。カノンさんは、あまり笑わないタイプの人だ。
…だけど、笑ったときは可愛いと思ってしまった。一瞬、ドキッとした。
しばらく歩くと、いろんな人がジロジロ見てきた。
手を振ってくれる人もいれば、いぶかしげな表情をする人もいた。
「着いたわ、これで任務完了ね」
そこは中央広場だった。大きな噴水とその後ろに巨大な水槽があった。
噴水の中央にはイルカの像があった。そして前後左右に大きな道がある。
前方は高貴、高潔を思わせるお城、左右には娯楽施設と住宅街がそれぞれ見える。
「これから、お医者さんのところに行くけど一人で行ける?」
「バカにしないでよ! 僕は一人でおつかいにも行けるんだよ!」
「そう、それならよかったわ。あとコレね」
そういって、カノンさんは僕に手紙を渡した。
「ある男に渡してほしいの」
「え?…もしかして、ラブレター?」
「ええ、それを渡すと喜ぶと思うわ、サーディンっていう人よ。お願いね」
それだけ言って、彼女は、大きな真珠貝が見えるお城にむかって歩いて行った。
…あれ?なんで僕ガッカリしているんだろう…?
「想い人がいたのか。どんな人なんだろう…ん?」
突然、僕の左手首の腕時計がブルブル震え出した。
目のまえに3Dの地図があらわれた。一つの小さい家に大きな矢印が付いている。おそらく目的地を示しているんだろう。ここから距離はそこまでなさそうだ。
街並みを散歩しながら、行くとちょうど良さそうだ。
(早く行けとは言われなかったし、ワルいことさえしなければ大丈夫だろう)
そんな考えから、僕はユルりと散歩しながら行こうと決めたのであった。
オルテンシアはとても分かりやすい構造だ。例えば、中央広場から見える長い坂道の上には青と水色の配色に金色の線で縁取られた宮殿が見える。あと公に関わる機関が集まっている。つまり、公的な施設に用があるならば、坂の上を目指せばいい。その他にも自分の目的に応じて中央広場からどこへでも行けるようになっている。
おまけに建物の屋根が赤、緑、黄、紫、橙、紺…に塗り分けられている。
違いはわからないけど…。
まとまった区画にそれぞれ色分けされているのだからなにか意味はあるんだろう。
いろいろと見てまわったが、中央広場に戻ってきた。
「まだいっていないエリアは…まだけっこうあるな」
とりあえず中央広場から一番近い歴史資料館から行くことにした。
(カノンさん…オルテンシアのこと全然教えてくれないんだもんな…)
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