理想の顔アプリ
@ayumix
第1話
未来は外見にコンプレックスを持つ高校生。ある日、街であるアプリの噂を耳にする。それは、そのアプリを入れて理想の顔を思い浮かべて自撮りするだけで、理想の自分の顔になれるというものだった。
未来は興味を持ち、すぐにそのアプリを検索するが、なかなか見つからない。もしかして、ただの噂なのかとあきらめかけた時、SNSでそのアプリの情報を知っているという人と偶然知り合う。相手から招待メールをもらい、ダウンロードしてみることに。
未来は早速アプリを使ってみる。自撮りをするだけで、理想通りの顔に変わり、元の顔に戻したいときは、もう一度自撮りすればいいと知り、驚きと興奮が湧き上がる。何より、親や学校にはバレないのが最大の魅力だった。
その日、未来は外出先の女子トイレで試すことに決めた。鏡の前で理想の顔を確認し、トイレを出た瞬間、周りの視線が変わった。ナンパされ放題で、皆が未来に羨望のまなざしを向けてくる。思わず、自分がモデルスカウトまでされるような状況に、未来は夢見心地で歩き出す。
これで、今まで悩んでいたことが解決したと思い、青春を謳歌できると確信する未来。しかし、このアプリには何か裏があるのではないか、という予感も感じていた…。
未来は、理想の顔を手に入れてから自信を持てるようになった。毎日、外出前には必ず女子トイレでアプリを使い、理想の顔を作り上げてから出かけるようになった。最初は、ほんの少しだけ感じた違和感も、次第にその変化に慣れ、アプリを使うことが生活の一部となっていった。
しかし、数ヶ月後、アプリからお知らせが届いた。内容はこうだった。
『このアプリは現在開発途中です。開発費用のため、今後は課金が必要となります。ご協力をお願いします。』
最初のうちは、数百円の微々たる金額だった。しかし、月が替わるごとにその額は次第に膨れ上がり、気づけば数千円、さらには数万円にまで達していた。最初は半信半疑だった未来も、理想の顔を保つために、アプリなしでは外出できなくなり、ついにはお金が足りなくなってしまった。
そのため、未来はバイトを始めることにした。このアプリを使い続けるために、必死になってお金を稼ぐ決意を固めた。
アプリを使って理想の顔を手に入れた未来は、ついに彼氏もできた。しかし、彼女はもう後戻りできないことに気づいていた。理想の自分を維持するためには、バイトを続けてアプリ代を稼ぐしかなかった。
だが、ある日、未来に衝撃的なお知らせが届く。「アプリの開発が中止になりました。」その瞬間、未来の胸は焦りと不安でいっぱいになった。どうすればいいのか、もう理想の顔は手に入らないのか、何もかもが崩れていくような気がした。
その時、運営側からDMが届く。「あなたにだけ特別なアプリをご紹介します。前のアプリは会員数が増えすぎて終了となりましたが、今回のアプリは限定された会員のみが利用できます。月1万円で、いつでもアプリのサポートを受けられます。」
未来はその内容にすがるしかなかった。もう他に方法が思いつかず、そのオファーを受け入れた。
しかし、ある日、未来は目の前で衝撃的な光景を目にしてしまう。彼氏がこっそり自分と同じアプリを使っているところを見てしまったのだ。彼氏の顔は、アプリを使って作り上げた理想的な顔ではなく、実際には本当はかっこよくないと気づいた。未来は愕然とし、胸が冷えた。
その瞬間、彼女は決心を固める。理想の顔を作り上げてくれた彼氏だが、その顔が本当の彼ではないと理解した以上、別れるべきだと強く思った。
未来は彼氏に別れを切り出す。「ごめん、もうダメなの。別れたい。」彼氏は驚いた様子で言った。「なんでだよ?俺たち、うまくやってきたじゃん。喧嘩もせずに、仲良くやってきたじゃないか。」
未来は怖くなった。イケメンの彼氏が言うなら納得できるけど、元の顔に戻った彼氏では、100年の恋も冷めるような気がした。何を言われても、心の中ではすでに別れる覚悟が決まっていた。
「実は、他に好きな人ができたの。」涙をこらえながらそう言った未来に、彼氏はただ一言、「わかった。」と言うしかなかった。
未来は今度こそ、本当のイケメンを見つけようと決意し、探し始める。出会った人々のスマホをこっそりチェックし、アプリがインストールされていないか確認する。ついに、ハイスペックなイケメン彼氏をゲットした。彼はエリート商社マンで、まさに未来の理想の男性だった。
彼氏は未来に、教養と常識を身につけるようにとアドバイスをくれる。そして、将来的に君と結婚したいとも言われた未来は、幸せをつかむために必死で努力し始める。礼儀作法を習ったり、生け花、お茶、日本舞踊など、数々の習い事を増やしていく。勉強も怠らず、家庭教師を雇って成績を上げる。両親もその姿勢に賛同し、玉の輿に乗るための先行投資だとお金を出してくれる。
しかし、未来は日に日に疲れ果てていく。習い事の数は増え、クラシックバレエ、ピアノ、お琴、バイオリンと、彼の理想に近づくためにはもっと努力しなければならない。彼氏の要求が次々に増え、未来はもはや自分の限界を感じ始めていた。
ある日、ふと疑問が湧き上がる。「ここまでして手に入れたい幸せって、果たして本当にあるのだろうか?」と。彼の理想に合わせることで、自分を犠牲にしてまで手に入れようとしているものが、本当に幸せなのか。未来はその答えを見つけられずにいた。
未来は考えていた。昔、自分が顔のせいでスクールカーストの下位にいたことを。辛い思いをした過去があるからこそ、自己肯定感が低く、理想の自分を追い求めてきた。顔が変われば、きっと人生も良い方向に変わると思っていた。しかし、今は違う。理想の顔を手に入れても、努力しても、まだ足りないと言われる。彼氏の期待に応えられなかった自分が、どんどん苦しくなっていく。
確かに、彼はハイスペックで、釣り合うように努力してきた。だけど、それ以上頑張って、結婚したとしても、結婚後もずっとそのように理想を押し付けられる日々が続くのかと思うと、耐えられない。未来はついに限界を感じ、彼氏にメールを送る。
「私、もう頑張れない。限界なの。体も心も。ごめんなさい。」
数分後、彼氏から電話がかかってきた。「努力が足りないのは、自分の意志が弱いからだ。精神を鍛えなおさないとだめだ。」未来は、彼が自分を理解しようとしていないことに、悲しみを感じる。そして、思い切って言う。
「別れましょう。あなたと付き合っていても、最近楽しくないの。否定ばっかりで、何も認めてもらえないのはさすがに辛いよ。」
彼氏は、「絶対に別れない」と言い、電話を切る。数時間後、彼氏は突然未来の家に来た。どうして自分の家を知っているのか?調べたのか?未来は、これまで隠してきた本当の顔を見せる覚悟を決める。ドアを開けると、驚いた彼氏の顔が見えた。
「未来さんは御在宅でしょうか?」と尋ねる彼に、未来は冷たく言う。「私が未来。これが本当の私。こんな顔でも私を愛せるの?」
彼氏は顔を歪め、激怒した。「俺を騙していたのか?最低だな。」
「こんな顔の女と付き合っていたなんて、俺の汚点だ。別れてやるよ。」と彼は吐き捨てるように言い、すぐに帰っていった。未来はその後、心の中で一瞬の安堵を感じるが、同時に複雑な気持ちが湧いてきた。
やっぱり、顔が良かったから付き合っていただけなんだろうか。本当の自分を見せた瞬間、彼の愛は全て虚構だったのだと痛感する。しかし、これでようやく、自分を偽らずに生きていけると思う反面、心の奥にぽっかりと穴が空いたような気がした。
未来はアプリを退会し、スマホから削除した。顔が良くても、結局は本当に大切な人と巡り合えないことを痛感したからだ。自分の顔は相変わらず好きになれないが、この顔で生きていくしかないと覚悟を決めた。けれども、身につけた教養や知識、礼儀作法は、もう誰にも奪われない、自分だけの財産だと感じた。彼氏に対して、少しだけ感謝の気持ちが芽生える。内面を磨くことで、少しずつ自分に自信を持てるようになれば、やがて自分を好きになれるかもしれないと思った。
それから未来は、顔にこだわることはなくなった。外見はただの入れ物だと気づいた。どんなに美しくても、そこに中身がなければ意味がない。そして、今の自分を大切にしていこうと決意した。人間関係も大切にし、これからは本当に大切なものを見失わずに生きていこうと思った。
おわり。
理想の顔アプリ @ayumix
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます