第37話 農協主導のスマート農村化計画、始動

🧭 序の言葉:農地に、小さな塔が建った日

アースル村の東端、麦畑の脇にひときわ目立つ、背の低い魔導塔が建てられた。

魔力を使った天候観測、発酵状態のリアルタイム監視、精霊活動の記録――

その名も《スマート農村化魔導塔・プロトタイプ001号》。


ギルド農協が主導し、地域の若者たちと共に立ち上げた、次世代農村プロジェクトの第一歩だった。


🌾 本章:魔法と技術で、村を“つなげる”記録

かつて、農協は「古くて面倒な組織」と言われた。

だが風間は、それを「土と人と技術を結ぶハブ」へと変えようとしていた。


■《スマート農村化プロジェクト》の骨子:


・魔導観測塔の分散設置による気象・精霊変動モニタリング網の構築


・農家ごとの作物データ可視化(魔力量/発酵進行度/収穫適期予測)


遠隔共有板ソイル・ボイスにより、農家間の知見と失敗事例の交換


・若者技師育成枠の創設で、“技術と農”を両立する人材育成も実施中


「……村をひとつの“生き物”として観察する。

土の声を“数値”に変えて、みんなで育てていく」


それは、効率化ではなく、感性の補助としての技術だった。


📡 技術は、心を遠ざけるか?――議論と対話

導入にあたって、年配農家からは反発もあった。


「昔は“手の感覚”で育ててた。

なんでも魔法や数字で判断して、“魂の育ち”はどうなるんだい?」


風間は、迷わずこう答えた。


「機械や魔法は、“補助輪”です。

乗れるようになったら、外してもいい。

でも、育ち始めた“感覚”を、もっと伸ばすための支えになるんです」


やがてその言葉に納得し、老農家のサブローはこう言った。


「なら、使ってみるよ。

“俺の勘”と“あんたの魔導機械”、どっちが当たるか勝負だな」


笑いが起きた。村が、また少しだけ近づいた瞬間だった。


🔮 実証の成果と、芽吹く未来

数ヶ月後、“発酵モニタリング”によって

ミエルのパン酵母はかつてない“安定ふくらみ率”を記録。


サラマンダーの火力と魔力循環を掛け合わせた“熱畑ハウス”が稼働し、

エルフの月光野菜の生育が3割向上。


村の子どもたちは《ソイル・ボイス》に毎日絵日記のように

「今日の畑の気持ち」を記録していた。


風間は、その端末の端に、自分の一行を残す。


「この村は、未来がある。それは、“一緒に考える余地がある”ってことだ」


🌱 収穫のひとこと

技術は道具にすぎない。

でも、“誰かと一緒に未来を考える道具”になったとき――

それは村を“もう一つの家族”に変えてくれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る