第4章:多種族との共存農業

第19話 エルフと挑む“聖樹農法”とそのリスク

🧭 導入の書:この物語のはじまりに

伝説の樹木“アナフェルの聖樹”――

その根から滲み出す魔力は、作物の成長を飛躍的に高め、病害虫を寄せつけない。

エルフの森に代々伝わるこの“聖樹農法”を、人間の農地にも導入できないか――

そんな試みが始まった。

だが、エルフの農学者・リーファが語る言葉は、人間にとって“あまりにも遅すぎる収穫”だった。


🌾 本章:農地に立つ者たちの記録

「この畑、全然芽が出ないんですよ。

でも、リーファさんは“順調”って言ってて……」


若手農家・ユリオの声には、焦りが滲んでいた。


彼が管理しているのは“実験農地”――

エルフ族の聖樹の苗木を中心に、作物をゆっくり育てる“共鳴型栽培法”が導入されていた。


「芽が出るのに、3か月……収穫まで、最低3年」


それがエルフ流の“農業スパン”だった。


「リーファさん、こっちは一年で収穫を出さないと暮らせないんです」


人間とエルフ。

時間の感覚も、経済の前提も、あまりにも違いすぎた。



風間は森の奥、リーファの研究小屋を訪ねた。


「“結果を急ぎすぎる”――それは人間の悪癖です」


そう言いながら、リーファは苗木の下に手を当てる。


「けれど、私たちは命を“千年単位で見る”習慣がある。

“今年収穫できるかどうか”より、“百年後に何が残るか”を優先します」


「……それは確かに正しい。でも、

“今”を生きてる農家たちには、その時間は持てないんです」


風間の言葉に、リーファはしばらく黙り込んだ。


「では――間を取る方法を、考えてみましょう」



翌月、風間とリーファは共同で**“二層型農法”**を試みた。


地表では、人間向けの短期作物(ラディルート・ヒーマ豆)を栽培


地中では、聖樹根系と共鳴する長期養土植物を“育て続ける”


時間軸の異なる農業を“並列”で走らせる試みだった。


「まるで、速さの違う列車が同じ線路を走るみたいですね」


ユリオがつぶやいた。


リーファは頷く。


「未来を育てながら、今を生きる――

人間にこそ、それができると思っています」



三か月後――


ユリオの畑では、ラディルートが豊かに実り、

その根元ではゆっくりと、聖樹の若い根が張り始めていた。


「“未来の土”を借りながら、“今の収穫”を得る……

これ、もしかして“本当の共存”じゃないですか?」


リーファは笑った。


「急がないことは、諦めることではありません。

時間は、育てるものですから」


🌱 収穫のひとこと

短く育てる命と、長く育てる命。

その両方を抱えてこそ――本当の“農”が始まるのかもしれない。

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