第4章:多種族との共存農業
第19話 エルフと挑む“聖樹農法”とそのリスク
🧭 導入の書:この物語のはじまりに
伝説の樹木“アナフェルの聖樹”――
その根から滲み出す魔力は、作物の成長を飛躍的に高め、病害虫を寄せつけない。
エルフの森に代々伝わるこの“聖樹農法”を、人間の農地にも導入できないか――
そんな試みが始まった。
だが、エルフの農学者・リーファが語る言葉は、人間にとって“あまりにも遅すぎる収穫”だった。
🌾 本章:農地に立つ者たちの記録
「この畑、全然芽が出ないんですよ。
でも、リーファさんは“順調”って言ってて……」
若手農家・ユリオの声には、焦りが滲んでいた。
彼が管理しているのは“実験農地”――
エルフ族の聖樹の苗木を中心に、作物をゆっくり育てる“共鳴型栽培法”が導入されていた。
「芽が出るのに、3か月……収穫まで、最低3年」
それがエルフ流の“農業スパン”だった。
「リーファさん、こっちは一年で収穫を出さないと暮らせないんです」
人間とエルフ。
時間の感覚も、経済の前提も、あまりにも違いすぎた。
*
風間は森の奥、リーファの研究小屋を訪ねた。
「“結果を急ぎすぎる”――それは人間の悪癖です」
そう言いながら、リーファは苗木の下に手を当てる。
「けれど、私たちは命を“千年単位で見る”習慣がある。
“今年収穫できるかどうか”より、“百年後に何が残るか”を優先します」
「……それは確かに正しい。でも、
“今”を生きてる農家たちには、その時間は持てないんです」
風間の言葉に、リーファはしばらく黙り込んだ。
「では――間を取る方法を、考えてみましょう」
*
翌月、風間とリーファは共同で**“二層型農法”**を試みた。
地表では、人間向けの短期作物(ラディルート・ヒーマ豆)を栽培
地中では、聖樹根系と共鳴する長期養土植物を“育て続ける”
時間軸の異なる農業を“並列”で走らせる試みだった。
「まるで、速さの違う列車が同じ線路を走るみたいですね」
ユリオがつぶやいた。
リーファは頷く。
「未来を育てながら、今を生きる――
人間にこそ、それができると思っています」
*
三か月後――
ユリオの畑では、ラディルートが豊かに実り、
その根元ではゆっくりと、聖樹の若い根が張り始めていた。
「“未来の土”を借りながら、“今の収穫”を得る……
これ、もしかして“本当の共存”じゃないですか?」
リーファは笑った。
「急がないことは、諦めることではありません。
時間は、育てるものですから」
🌱 収穫のひとこと
短く育てる命と、長く育てる命。
その両方を抱えてこそ――本当の“農”が始まるのかもしれない。
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