第10話 王都との交渉!農作物の適正価格とは
🧭 導入の書:この物語のはじまりに
王都の収穫祭を前に、アースル地方からの出荷価格が問題になっていた。
「高すぎる」と王都市場は通告し、「適正価格でなければ取引は中止」とまで言い出す始末。
ギルド農協の職員・風間は、“価格表の裏側”を理解しない役人たちと、対話とデータと信念で立ち向かう。
🌾 本章:農地に立つ者たちの記録
「この価格では、王都の民は買えません。――そう、文書にはっきり書かれていました」
そう語るのは、王都流通局の役人、ソロ・レイヴァス。
魔法式価格表を前に、まるで数字だけが世界だと言わんばかりの態度だった。
「“アースル産キリグミ穀、標準量1袋=150リル”は、王都の基準で言えば“20リル”高すぎます。
このままでは、王室認可ブランドの認定を剥奪せざるを得ません」
その横で、ギルド本部のマリスが顔をしかめていた。
「……風間。あんた、やる?」
「ええ。俺が出ます」
*
交渉の場。
テーブルの上には、三種の価格表が並べられた。
・王都基準価格表(収益重視)
・ギルド農協価格表(生産者保護重視)
・現場農家実費データ(赤裸々な現実)
「レイヴァスさん。これ、見てください。
種代、肥料代、人件費、輸送コスト。
農家が一袋を作るのに最低限必要な“実費”です。これを無視して価格を決めるなら――それはもう“盗み”と変わらない」
「ですが、王都には“買える層”も必要なのです!あくまで“市場価格”が優先されるべきです!」
「なら――選べる仕組みにすべきです」
俺は提案した。
同じ作物でも、“出荷形態別に複数価格帯”を設定する方式。
・A品:完全整形・高品質 → 高級飲食店向け
・B品:多少の傷あり → 一般家庭向け
・C品:規格外 → 加工品・福袋ルート
これを提携商会と連携して導入すれば、“価格の二極化”と“農家の維持”の両立が可能になる。
「……それが、王都の消費者とアースルの農家、両方にとっての“適正価格”だと、私は思います」
沈黙のあと、レイヴァスは口を開いた。
「……前例は、ありませんが。
しかし、交渉の意義は認めましょう。王都側での再審議を行います」
*
交渉を終えて帰る馬車の中、マリスが小さく笑った。
「王都の役人って、数字しか見ないと思ってたけど……
数字“だけ”じゃないヤツも、いるんだな」
「人が決めてる数字なら、話せば動くんです。
それが“価格”ってものなら、なおさら」
窓の外には、畑が広がっていた。
誰かの手で育てられ、誰かの口に運ばれ、
そのすべてに“値段”がつくということの重みを、改めて俺は噛みしめていた。
🌱 収穫のひとこと
価格は、ただの数字じゃない。
それは、誰かが生きていくための、“命の値”だ。
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