第8話 出荷しすぎた!? 豊作の罠

🧭 導入の書:この物語のはじまりに

今年の作柄は、まさに“奇跡”――適度な雨、安定した気温、虫害ゼロ。

アースル地方では何年ぶりかの大豊作となり、農家たちは沸き立っていた。

だが、出荷がピークを迎えた数日後、王都から届いたのは一通の通達だった。


「供給過多につき、市場価格を緊急引き下げる」


喜びは一転、絶望へ。

“作りすぎた代償”を突きつけられた農家たちと、ギルド職員・風間の奔走が始まる――


🌾 本章:農地に立つ者たちの記録

「ふざけんなよ……なんで“売れた分”じゃなく、“値段”を下げるんだよ!」


怒号が飛び交う会議室。

集まった農家たちの前で、俺はただ一人、王都市場からの文書を持って立っていた。


「これは……市場価格調整令です。出荷量が予測の3.4倍を超えたため、単価を4割引き下げるとのこと」


「俺たち、手間も金もかけて育てたんだぞ!

なんで、それが“安すぎる”って理由で損するんだ!」


彼らの怒りは当然だ。

でも、それは「市場原理」――この異世界でも変わらない現実だった。



畑に戻った俺は、農家のノゼンと話していた。

彼は中堅の農家で、今年は全力で作付けを増やしていた。


「……去年、虫害で赤字だったろ?だから、今年は巻き返すつもりだったんだ」

「そうですね……天気も味方したし、完璧なシーズンでした」


「なのに、“出荷しすぎ”だとよ……」


彼の背中が、小さく見えた。

豊作なのに、苦しい。これが“農業の罠”だ。



俺はギルド農協の調整部門と連携し、急遽緊急加工支援枠を申請。

野菜を乾燥保存加工に回し、保存食ルートへ流す策を講じる。


また、地域の魔法学院と連携し、「家庭魔法調理実習用の素材提供」プロジェクトも始動。

“食育用”の食材として、“豊作野菜”を学習素材として活用する試みだ。


「未来の料理人や魔法薬師たちに、地元の野菜を届けるんだ」


「値段にはならなくても……誰かの経験や思い出になるなら、悪くないか」


ノゼンはそう言って、未出荷のカゴを抱えた。



数日後、王都のとある魔法学院にて。


「先生、このキャベツ、いつもと香りが違う!」

「アースル産か。こっちの方が、“生命力”があるな」


生徒たちが笑顔で野菜を手に取る様子を、ノゼンは遠くから見つめていた。


「風間……これ、売れたんだよな。金にはならなかったけど、“届いた”んだよな」


「はい。農業って、“届ける”ことも、収穫なんです」


🌱 収穫のひとこと

実った実りが、すべて“利益”になるわけじゃない。

でも――“誰かの心”に届くなら、それはちゃんと、報われる収穫なんだ。

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