第8話 出荷しすぎた!? 豊作の罠
🧭 導入の書:この物語のはじまりに
今年の作柄は、まさに“奇跡”――適度な雨、安定した気温、虫害ゼロ。
アースル地方では何年ぶりかの大豊作となり、農家たちは沸き立っていた。
だが、出荷がピークを迎えた数日後、王都から届いたのは一通の通達だった。
「供給過多につき、市場価格を緊急引き下げる」
喜びは一転、絶望へ。
“作りすぎた代償”を突きつけられた農家たちと、ギルド職員・風間の奔走が始まる――
🌾 本章:農地に立つ者たちの記録
「ふざけんなよ……なんで“売れた分”じゃなく、“値段”を下げるんだよ!」
怒号が飛び交う会議室。
集まった農家たちの前で、俺はただ一人、王都市場からの文書を持って立っていた。
「これは……市場価格調整令です。出荷量が予測の3.4倍を超えたため、単価を4割引き下げるとのこと」
「俺たち、手間も金もかけて育てたんだぞ!
なんで、それが“安すぎる”って理由で損するんだ!」
彼らの怒りは当然だ。
でも、それは「市場原理」――この異世界でも変わらない現実だった。
*
畑に戻った俺は、農家のノゼンと話していた。
彼は中堅の農家で、今年は全力で作付けを増やしていた。
「……去年、虫害で赤字だったろ?だから、今年は巻き返すつもりだったんだ」
「そうですね……天気も味方したし、完璧なシーズンでした」
「なのに、“出荷しすぎ”だとよ……」
彼の背中が、小さく見えた。
豊作なのに、苦しい。これが“農業の罠”だ。
*
俺はギルド農協の調整部門と連携し、急遽緊急加工支援枠を申請。
野菜を乾燥保存加工に回し、保存食ルートへ流す策を講じる。
また、地域の魔法学院と連携し、「家庭魔法調理実習用の素材提供」プロジェクトも始動。
“食育用”の食材として、“豊作野菜”を学習素材として活用する試みだ。
「未来の料理人や魔法薬師たちに、地元の野菜を届けるんだ」
「値段にはならなくても……誰かの経験や思い出になるなら、悪くないか」
ノゼンはそう言って、未出荷のカゴを抱えた。
*
数日後、王都のとある魔法学院にて。
「先生、このキャベツ、いつもと香りが違う!」
「アースル産か。こっちの方が、“生命力”があるな」
生徒たちが笑顔で野菜を手に取る様子を、ノゼンは遠くから見つめていた。
「風間……これ、売れたんだよな。金にはならなかったけど、“届いた”んだよな」
「はい。農業って、“届ける”ことも、収穫なんです」
🌱 収穫のひとこと
実った実りが、すべて“利益”になるわけじゃない。
でも――“誰かの心”に届くなら、それはちゃんと、報われる収穫なんだ。
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