寂しさはつながる

第1話 

引っ越しの当日に親友から送られたペンケース。

手のひらにおさまる、不愛想なブリキ缶に腹が立つ。

こんなちっぽけな友情を贈られても嬉しくない。電話での長話も、内緒の恋愛相談も、ショッピングモールで何度も遊んだのも、ウソみたいだ。


寂しい、悲しい。喉元がぎゅっと詰まる。

我慢できずに車の後部座席で泣いた。


震える指先からペンケースが落ちて、蓋が開く。

軽くて無機質なのに、温かくて懐かしい音がした。


足元に転がるのは、お揃いで買ったマーカーペンと、桜のイヤリング。親友の宝物だ。


ようやく気がついた。

親友は私に友情を託したんだ。引っ越しても会えるように、つながるように。


頬をつたう涙をぬぐう。


引っ越し先についたらペンケースを買おう。私のマーカーペンと桜のイヤリングを入れて贈ろう。手紙を書こう。寂しいけれど元気だよって。


宝物をブリキのペンケースにしまい、両手で包む。

車が揺れる。ペンケースが鳴る。離れても、そばにいるって教えてくれる。

うん。きっと大丈夫。

私はゆっくりと顔を上げた。

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寂しさはつながる @hosihitotubu

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