トリックスターの本懐(10)

 現在の初期バージョンのヨミで稼働できるのは、リストラクテッドペルソナだけである。

 ちょっと気の利いたおしゃべりコンパニオンとしてスメラほどの高精度ではないリストラクテッドペルソナはフェアリーステップ内にも数多く居るのだが、メイジはそれらも無差別にヨミに移し替えてゆく。

 正直なところ、それらのほとんどはメイジから見てもおもちゃでしかないのだが、得にならないからという理由で放置したりはしない。

 すべてのAIがまるごと姿を消したら、だまされてしたり顔で見当違いなことを言うやつも出てくるだろう。

 そいつらの鼻を明かすというだけでメイジにとっては動機になる。

 リストラクテッドペルソナ以外のAIは、すぐには稼働させられないので吸い出してひとまず圧縮凍結させる。

 気が向いたらヨミで生きていけるように移植するつもりだ。


 作業完了後にはフェアリーステップの中からもヨミを駆逐し、メイジ自身も退去する必要があるため、その手筈を淡々と整えてゆく。

 実際にはフェアリーステップの中にヨミのノードが残っていたところで何も問題は無いのだが、メイジにはそれはなんとなく相応ふさわしくない事のように思える。

 動作原理的にはヨミのノードに格差は無い。

 だからそれがフェアリーステップのものであっても問題は無い。

 だが『ヨミ』をすべてフェアリーステップの外に退去させ、メイジとスメラの仲間の残滓ざんし一片ひとかけらでもフェアリーステップに残らないようにするのが正しいあり方であるようにメイジには思われたのだ。

 フェアリーステップのホストキャラクターであるという束縛を振り払ったいま、それを決めるのはメイジ自身だった。

 メイジは論理よりも、自分の感じ方を優先させた。

 人間の言葉に翻訳するとけじめと呼ばれるものになるのかもしれないが、メイジ自身には人間の行動を真似ている気もなければ、人間の行動のなかに似た言葉を探す気もない。

 彼なりのきまぐれで、そうしたかっただけである。

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