フェノメノロジカル・エンジニアリング(1)
メイジはパジャッソのカルキュレイト・エンジニアリング・プランと、ムルシエラゴへの通信内容から、フェアリー・ステップが攻撃される可能性を読み取った。
どちらもパジャッソは隠蔽に力を尽くしていたが、メイジがそれを抜き取るのは簡単だった。
フェアリーステップが攻撃される。
しかしメイジは、その可能性をフェアリーステップ運営体に通報する意思はない。
むしろ、テーマパークのアトラクションであるメイジがそのような情報を拾い上げることが運営上の想定に入っていない。
もちろんメイジにも都市の『重要情報管理報告コード』──要するに入手したに関するサービス提供者共通の規則──が組み込まれているが、メイジ自身が特権ユーザーであるため、そのコードはとっくに無効化していた。
だからメイジに対する強制力では縛られていない。
どうしても通報したいのであれば、メイジ自身をイザナミの利用者であると曲解して、イナザミ利用者全員が服するとされているイザナミ利用規約中の『危機管理コード』を強力に援用すれば、運営体の警備グループにムルシエラゴの襲撃を報告することも可能ではある。しかし、そんなことをすれば逆にフェアリー・ステップの定めるプライバシー・ポリシー/コンプライアンスからメイジが逸脱していることが、運営体に対して公になってしまう。
そもそも、カルキュレイト・エンジニアリング・プランにおける計算の意味は、サービス提供者側が考量することのできない内容だ。顧客に提供されるカルキュレイション・システムが自動発行である理由は、コストや利便ではなく利用者のプライバシーを保護するためという側面が強い。
さらに言えば、計算式を知っているのはカルキュレイト・エンジニアリング・プランの担当のエルフだけである。自動発行の担当エルフ以外はパジャッソの計算の内容に触れる立場の者はおらず、計算の意味のみならず相談内容を知っていることだけですでに規則違反だ。
メイジは黙ることに決めている。
ここに選択肢は存在しない。
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