EnScapeキラキラパフォーマンス:オン・ライフ(3)

「じゃあ、舞台袖からライブを見に行こう。こっちだよ」

 部屋の奥にある扉から出て階段を降り、地下通路を自分の足で歩いて行く。

 マスコットに連れられて進むと、いつも──つまりハルカのアバターを着て参加している時──ゲームのときに出番の前に通る舞台裏が見えてきた。

 いつもならばさっき会った店長のアナウンスがステージへの誘導をしてくれるのだが、今日はパジャッソの出番ではないのでもちろん聞こえず、ハルカが魔法のメイキャップマシーンに特別メイクを注文している姿が遠巻きに見える。

 舞台裏を見ているという感動に襲われるが、赤い鳥のガイドマスコットがこっちだと手──というか羽根なのか手なのか──を振って、自分の後を追って来るようにうながす。

 普段のゲームでは見たことのない通路に連れて行かれ、ステージを横から見ることのできる舞台袖に到着した。

 舞台袖とは言うが、そこには舞台装置の出し入れや演者の入退場のような機能は無く、壁に謎の手すりが付いているだけのなんでもない空間である。アイドルはこの舞台袖から登場するのではなく、共通の登場音楽とともに舞台中央にワープして現れる。

「EnScapeを停止してもハルカちゃんのステージを見ることができるよ。でも常駐モニタとかがレイヤーに紐付いてるなら停めない方がいいのかも」

 開演前にもう一度マスコットがアナウンスをしてくれる。

 パジャッソはこれを楽しみにこの場に来たのだ。

 常駐モニタもあることはあるが、構わずにEnScapeのみならず、角膜ディスプレに表示されているすべてのレイヤーを停止させて、視界に入るのが肉眼映像のみの状態にする。

 もちろん、空中投影されているとはいえ、投影されている映像は普段と同じであり、近寄ってさわってみることができるわけでもない。

 それでも、肉視で見るとやはり違いはあるはずなのだ。


 ハルカの名前を呼ぶ場内アナウンスがあった。

 お決まりの登場用のサウンドオーメンが聞こえる中、舞台中央に回転する光の塊が出現する。

 サウンドオーメンの高まりにつれて光の回転が速くなってゆき、最高潮のクライマックスで光の塊の中央にハルカが登場した。

 いつもの登場シーンなのだが、肉視で見るとなぜか迫力が違う。

 登場だけで、もはやほぼ神々しい。

 サウンドオーメンのあと、ほんの一瞬の静寂。

 それから耳慣れた曲のイントロが始まった。

 パジャッソが設定したハルカの得意曲『ワレノゾム』のイントロである。

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