メイジ:リストラクテッド・ペルソナ(2)
フラグメント・エルフの部分集合を寄せ集めて行われるリストラクテッド・ペルソナの知性は、フルデザインド・インテリジェンスの斉一でロウフルな知性に比べると、カオティックで予測がしにくいところがあると言われている。
言い換えると、リストラクテッド・ペルソナはなんとなく「生」っぽい。
逆に「生」っぽいだけあって制御もしにくいため、精密で高速な判断を繰り返す用途などのインダストリアルな製品としての品質は低くなりがちであるとも言われている。
人工知能科学で扱われる場合、リストラクテッド・ペルソナを厳密に表現すると『環境条件にセンシティブで膨大な迂回路を持っているために複雑系的な挙動をする旧式のエキスパートシステムと哲学的な意味で差が無い』ために、「中国語の部屋である」「知性的ではない」という扱いを受けることも少なくない。
しかし裏返せば、その「生」っぽさはテーマパークの楽しいホストには向いた資質でもあり、そのホストが哲学的に厳密な意味で『知性的』である必要もない。
フェアリー・ステップでは、様々なキャラクター付けをされたリストラクテッド・ペルソナ六〇体を全体として『スメラ』と名づけ、スメラ達はテーマパークのホストとして配置され、観光の目玉のひとつになっている。
メイジはフェアリーステップにいる六〇のスメラの中でも、ユニバーサルノーヅ上での大きな権限を与えられている。
名前にちなんでいるという。
『ウィザード』というのは、そういう権限とかを持っているものなのだそうな。
メイジはウィザードでなくメイジなのだが、スメラのデザイナーにとってはそのあたりの設定はガバガバでよかったらしい。
製作者によってメイジに与えられた性格は『トリックスター』。
詐欺師、ペテン師、いたずら者、道化のような、ルールを踏み外す役割だ。
メイジはその能力を使い、きまぐれでアケビに盗聴モジュールを仕掛けていた。
メイジは見ているだけ。
騙されてアケビのcpS制御部分のマガタマを奪われたマイのことを助けることもしないし、当局への通報もしない。
不規則で乱雑で意地悪で超越的、それが『トリックスター』に与えられた役割だからだ。
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