観察者(2)

「アケビちゃんに角と羽が生えるようになるよ。ゴーグルを付けて、EnScapeで見てごらん」

 パジャッソに促されてマイはゴーグルを付ける。

 流れでEnScapeに再ログイン。

 すると、いつの間にかパジャッソにも市域情報のシグナルが出るようになっている。

「cpシグナルが出てるよ?」

「アケビちゃんの力を借りたからね。ほら、アケビちゃんだ」

「アケビ、角も羽根もないけど……」

「デビルチェンジだ。マイちゃんがアケビちゃんに命令するんだ」

「命令?」

「そう、デビルチェンジって言って」

「……デビルチェンジ」

 マイのコマンドに反応してEnScapeのアケビに、可愛らしい悪魔の角と羽根が生える。

 触っても特になにもないがEnScpaeの衝突は起こる。

「飛べるの?」

「それは無理だ。ライフのアケビちゃんと位置がズレちゃうから。まあ、生えてるだけ」

「そっか。戻すのはどうするの?」

「フェアリーチェンジって言えば元の妖精に戻るよ」

「妖精……なのかな? フェアリーチェンジ」

 マイの言葉を合図にして、アケビが元の姿に戻る。

「これ、何に使うの?」

「デビルの角の先がEnScapeのオブジェクトに干渉するんだ。羽根は何もできないけど。というわけで、さっきの場所に行ってみようか」

 パジャッソがアケビを持ったまま、マイがさっきまで居た場所に近づく。

「マイちゃん、アケビちゃんをデビルチェンジして」

「アケビ、デビルチェンジ」

 パジャッソがデビルアケビの首根っこを掴み、さっきのほころびにアケビの角を押し当てた。

 ほころび近くのはみ出た部分、その付け根をなぞるようにして、アケビの角の先を押し込む。

 「よっ」と小さな掛け声で、押し込んだところからEnScapeを少しまくって、つまんでみせた。

「はい、マイちゃん。ここ、持ってみて」

 パジャッソがマイを呼んで、まくった部分をマイに譲る。

 マイも指先でそこをつまむことができた。

「わあ、すごーい! それで、この先はどうするの?」

「…どうもならないよ。隙間ができるだけ。場所によっては取れちゃうかもしれないけど、それだけかな」

「EnScapeの裏側に行ったら無敵とかワープができるんじゃないの?」

「……無理じゃないかなぁ。まくったところを覗いてみてごらん。ライフが見えるだけだから」

 言われたとおりにしてみたら、確かにその通りだった。

「なんだ、つまんない」

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