彼はフェアリーステップを探検する(2)

 鹿をかついだ赤髭の大男が目抜き通りを歩いている。

 アバターのオーメンは彼がスメラであることを示している。

 EnScapeでシグネチャを呼び出して確認するまでもなく、彼の名前はみんなが知っている。

 彼はオーディン。

 スメラの一人だが、フェアリーステップの外のメディアにも度々登場する有名人でもある。

「やあオーディン、鹿肉かい? 豪勢だな」

 歩いていた誰かがオーディンに気軽に声をかける。

 オーディンはスメラだ。

 つまりテーマパークのホストキャラクターである。

 だから、パンフレットに書いてあった通り、誰にでも心良くこたえてくれる。

「こんなもん食わねぇよ、腹ぁ壊しちまう。これぁ違法アドだからな」

 そう言いながら鹿をひっくり返すと、ゲームアイテムの域外通貨での販売の広告が喋り始めた。

「ほら喋るな。違法だよ」

 オーディンが鹿の頭をゴチンと殴ると、広告が消えた。

 殴って消したように見えているが、本当は違うことがパジャッソには分かる。

 実際にはアドの動作許可の切り替えをしていた。

 身振りのアクションは観客にわかりやすいよう、演出上のきっかけに使っただけだ。

 見ている人が分かりやすいように。

 さすがは手練のテーマパークキャラクターである。

「ゲームアイテムのトレードはゲームトークンかうぐいす発行通貨のへいにしてくれよ。もしくは友達同士で内密に売るかだ。大々的に商売されると有価証券になっちまって、クエストのボーナスドロップがしょぼくなっちまうからな!」

 気さくで口が悪い大男のジョークで聴衆がどっと沸く。

 そもそも域外通過取引でのバリュー流出の悪影響は有価証券とはあまり関係ない話だ。禁止事項という意味で有価証券を絡めて印象付ける、嘘混じりの話術なのかもしれない。観客たちも、ドロップがしょぼくなるという言い草がおかしければ笑ってしまう。

 ここからオーディンがたくさんのゲスト達を相手にDoLRをネタにして公開トークショーを始めるが、ジャパッソは目立たないようにその場をそっと離れて、本来の目的に戻った。

 いずれにせよcpSで補足されているので目立たないことにあまり意味は無い。

 とはいえ人気スメラの突発トークショーに巻き込まれると長引くし目立つしで厄介だ。

 テーマパークのホストのおしゃべりだから面白いのかもしれないが、たいしたことを言うわけではない。

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