パンフレット:フェアリーステップ エントリーガイド(2)

 パンフレットの表現では詩的すぎて何のことを書いているのかほとんど理解できなかったが、フェアリーステップは火星に限らず人類全体でも有名な街だ。

 知っている知識で補足してみることにしよう。

 『レイヤードリアリティ』技術とは、つまり現実にあるものに仮想世界の情報を重ね合わせる事だ。最も簡単なものだと、カメラで撮った写真にそこに存在しないコミックキャラクターなんかを書き込むことができる。

 技術が高度であればそのキャラクターは動いて喋ることができるし、より高度であれば写真でなく動画と合わせて馴染ませることもできる。

 レイヤードリアリティとただ単に言う場合、一般に思い浮かべられるのはいま見ている映像のなかにコンピュータが情報を書き込んでくるものである。

 情報というのは、例えば読めない言語の看板に翻訳の文字を付与したり、レストランのメニューの文字の横にサンプルの映像を表示したり。ゲームならば目の前のテーブルの上にモンスターを表示したりすることだ。

 フェアリーステップ特製であると謳っているEnScpaeは『レイヤードリアリティ』の中でも更に高度なので、風景全体に即時別の風景を重ね合わせをすることができるし、重ね合わせで音声やフィードバックデバイスがあれば簡単な触覚も『レイヤード』してくれる。

 のみならず、オン・ノードで離れた場所からその「重ね合わせる側」の風景に居合わせることもできる。つまり、自分の上に好みの衣服やアクセサリーを重ね合わせることや、人物全体のアバターを「着る」こともできるし、衣装やアバターはオン・ノードで情報を共有しているので、自分の服装を相手に見せることができる。(もちろんレイヤーを重ねているのは「見ている側」なので、技術的な意味では見られる側のレイヤーを無視したり書き換えたりもできる。でも普通はしない。この辺はテクノロジーというよりプライバシーとかデリカシーの問題と考えられている)

 まぁ、アバターを「着る」場合には、自分より背格好が小さいとライフの自分がアバターからはみ出てしまうなどの事もあるので制限はある。

 例えばパジャッソがEnScapeでハルカを着るとはみ出してしまう。

 破れて穴の空いた服を着ることができないのと同じく、はみ出てしまうアバターを『着る』ことはできない。さらに言えば成人男性のパジャッソにとって、キラメスターのアバターは似合わない。

 世の中はそうなっている。

 一方で、EnScapeでは、オンリー・ノード──ライフではアクセスせず、ノードでのみアクセスすることをEnScapeではこう呼ぶ──ならば、パジャッソがハルカの姿でフェアリーステップの街中を歩き回ることができるし、おかしいと言われることもない。自分が宿に居たままアバターの姿をしてオン・ノードで歩きまわっているところを、街にいる他の通行人やお店のスタッフなんかにも認識してもらうことができる。

 この街以外で似たようなことをするなら、ハルカの姿をしたロボットを用意して遠くからそのロボットを遠隔で操作するテレプレゼンスが必要になるが、フェアリーステップではEnScapeを使ってさえいれば居ながらにして外出ができる。

 更には物理的にフェアリーステップから離れた場所にいる人でも、EnScapeのオンリー・ノードならば街を歩き回れるのだ。

 もっとも、他所からアクセスすると、主観的には一般のアバターウォークと差はなくなってしまう。だとしても『フェアリーステップ』はDoLRのゲーム内の街としても機能しているので、オンリー・ノードの人間もたくさん出入りして賑わっている。

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