VRキラキラパフォーマンス オン・ノード(1)
黒髪でやや背の高い、あまり目立たない男。
彼の名はパジャッソ。
彼は主役というわけではないが、この話では重要な役割を占めている。
よく見れば目つきが厳しいかもしれず、凶相というほどでもないが精悍な顔立ちかもしれない。
パジャッソという彼の名は偽名だ。
本名は伝わっていない。
その男、パジャッソはフェアリーステップの街にたどり着き、宿を取った。
目的の街にたどり着いたパジャッソは、さっそくオンノードでキラキラパフォーマンスを起動する。
ゲームをするためにこの街に来たわけではないのだが、慣れたゲームは軽く一息つくのにも悪くない。
ディスプレは装着するまでもなく角膜にインプラントしている。
アイウェアとしてはメガネやコンタクトレンズの方が一般的ではあるが、今となってはインプラントも別に珍しいと言うほどではない。
操作方法はEnGaze。視線方向で操作するデバイスだ。
眼球の表面である角膜にディスプレをインプラントしていても視線方向の認識は可能だ。市販品はそういうところは上手く行くようにできている。
ゲームを起動すると周囲の風景が切り替わり、自分のアバターもゲーム内の姿になる。
着飾った女の子のアバター。
名前はハルカ。
同名のゲーム内キャラクターを模したプリセットをそのまま使っている。
キラキラパフォーマンスというゲームは、はキラメスターと呼ばれるアイドルの姿になって歌と踊りのライブパフォーマンスで上手くアピールして、得点化された「おうえん」をオーディエンスから集め、悪者を成敗してハイスコアを目指すという内容である。
とはいえ悪者の成敗は自動的にやってくれる演出の一環であり、本質的にはアイドルになって可愛い衣装を着てステージで歌い踊るのが主眼のゲームだ。
ハルカの姿でゲーム内の今日の流行に合わせた衣装に着替え、来たばかりの街、フェアリーステップのキラメキライブハウスに向かう。
キラメキライブハウスはキラメスター達の拠点となっている施設だ。
拠点としての機能はどこの街でも同じだが、それぞれの街ごと特有の「キラキラアピール」というゲームで使えるスキルを配布している。配布のアピールはそう強いものではないが、いくつもあるコレクション要素のひとつになっており、アピールを収集するのもゲームの醍醐味のひとつだ。
アピーラーと呼ばれる、キラキラアピールの収集に重点を置いたマニアたちが居たりもする。
ノードで来ても実際に旅をして来ても配布を受けることはできる。
パジャッソはアピーラーというわけではないが、別件でこの街に来たのだからこの街のキラキラアピールを手に入れたいと思うぐらいにはこのゲームに対して真摯な姿勢で取り組んでいる。
フェアリーステップのキラハウスは聖地と呼ばれている。
とはいうものの、当地のキラキラアピールは特に人気があると言うほどでもなく、ノード上でのフェアリーステップのキラハウスは行き止まりなどが多くて若干不便なだけで普通である。聖地と呼ばれているのには、また別の理由があるのだ。
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