何度でも繰り返そう

倭塔瓦

第1話 せっかくならさ

 もう、疲れた。そう思いながら階段を登る。屋上の扉を開けた先はまるで天国のように光り輝いていた。もうこんな毎日は続かないんだ。やっと、やっと解放される。


 「ちょ、!ちょっと待ってください!」

 真夜中。廃ビルの屋上に居たのは、足をガクガクと震えさせ、フェンスをよじ登っている少女だった。

 自分の声にびっくりした少女は、フェンスから手が離れその場で尻餅をつく。

 やっとのことで動き出した自分の足は一直線に彼女の方へと向かって行った。

 側でしゃがめば、彼女はボロボロと涙を流している。

 「あの、えっと、」

 「もう無理なの!もう耐えられないの!もう、死にたいの」

 彼女の悲痛な叫びに胸が痛くなる。でも、無責任だと分かっているけど、彼女を死なせたくないと思った。

 「じゃ、じゃあ!最後に、私のスイーツ爆食い、手伝ってもらえませんか?」

 「え?」

 「私、いつか絶対やりたいと思ってたんですけど、友達いなくて。だから、お願いします」

 意外にもすらすらと出てくる言葉達で、どうにか彼女をここに繋ぎ止められないかと話し続ける。

 「……いいですよ。もう、何してもいいですし」

 案外素直に受け入れてくれた彼女と階段を下る。背格好的には自分と同じ高校生に見える。

 出てすぐのところにあったコンビニで全種類のスイーツを買い占める。適当に座れそうな場所を見つけてスイーツを広げると、何も言わず二人とも食べ始めた。スイーツも残り半分になってきた頃、彼女が口を開いた。

 「見られてたんで分かってると思うんですけど、私死のうと思ってたんです。死にたい、というより生きたくない、のほうが近いんですけど」

 そう話し始めた彼女はぽつりぽつりと言葉を繋ぎだした。上手く人と話せないこと、学校が辛いこと、そんな自分が嫌なこと。そこで一旦彼女は言葉を止めた。顔を上げて彼女の表情を見ると、そこには自嘲的な笑みが浮かんでいる。

 「でも、いざあそこに行くと死ぬの怖くなっちゃったんです。覚悟も固まってないのに行くなって感じですよね」

 「でも、私は貴方が死ななくて良かったって思ってるよ?」

 スイーツを口に含んで目線だけ彼女の方に残した。

 「……そう、ですか」

 彼女はどこか嬉しそうにも見える安堵の表情を浮かべて小さく微笑んだ。

 それを見て自分も口を開く。

 「私も、死のうと思ってあそこに行ったんだ」

 「……そうですよね。そうでもしないとあんな所に来ませんから」

 驚きもせず頷く彼女に安心感を覚える。

 彼女の話を聴いていると、自分も無性に話したくなった。

 「でもねー、貴方が死のうとしてるの見てさ、死んでほしくないって思っちゃったんだよねー。多分、それが全てだと思う」

 彼女はスイーツを食べながら黙って話を聴いてくれる。

 「まあ、これは私が思ったことだから誰かの意思を縛れることじゃないけどね。私は死ぬの、一旦やめることにしよっかな。と言っても辛い毎日の戻るのは嫌だからー、学校は辞めてー、バイトしてー、好きなだけスイーツ食べてー、お金が無くなったら死ぬ!くらいの気持ちで生きるの。……貴方はどうする?」

 思ったことを全て言い切ると、彼女の方に向き直る。彼女は一度目を伏せると穏やかに笑った。

 「私も、そうしよっかな」

 最後の一口を口に入れて彼女に別れを告げる。

 あぁ、食べ過ぎた。こんな夜中にこんなに甘いものを食べたら太ってしまう。まぁ、今日くらいは一夜の過ちってことで目をつぶろう。

 

 きっとこれから死ぬまでこの過ちを繰り返すのだろうけど。

 

 


 

 

 


 

 

 

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