四枠目 斑鳩とじょうがさき
私は、女の子が好きだ。
それはもちろんラヴの方だ。
私がアイドルを志したのは、女の子を幸せにしてあげたかったから。
いや、それは本音じゃない。
有名になったら、あの人にまた振り向いてもらえると思ったから。
我ながらしょうもないと思う。
動機が不純だったのを先輩アイドルに見破られた。
「私は命かけてファンの女の子の為にやってんのッ⋯⋯!アイドル舐めんな⋯⋯」
その通りだった。
だからその日に事務所をやめた。
その先輩は、過労で膝を怪我して芸能界を引退した。
「彩、あんたさ、Vtuberって興味ある⋯⋯?」
大学を卒業してスーパーのレジ打ちで食いつないでいた頃に、予想外の方向から、よく分からない業界の誘いを受けることとなった。
後のBL好きの先輩Vの事務所の一期生「綾小路・マイヨール・唱子」さんだ。
本当の先輩であることは誰も知らない。
自己紹介の動画を取って事務所へ送った。
連絡があって本社に呼び出された。どうやら選ばれたようだった。
無事に合格して、ヴァーチャルの肉体を手に入れた。
早く機材を揃えないと。
重要になってくる、設定、いや、プロフィールの情報は、最後の自分を偽らずに生きたいという部分だけは私が考えた所だ。まさか自分が「唯一の生き残り」になるとは全く思いもしなかった。
ママである「ぴょんきちリリ太郎♀」は私がビアンなのを知っている親友だ。
実は、左耳にイヤリングがある。目立たずに、でもよく見るとやっと認識できるようにデザインしてくれと私からお願いした。勿論有償で。
事務所チェックでも特に何も言われていない。
気がついてすらいないんだろう。
やはり令和になってもこれじゃ悲しくなる。
いつかは言いたいという気持ちはある。身内でそのことを知っているのは親友だけ。あと振られた(レズバーにいた自分をレズだと思い込んだノンケだったのを見破れなかったせいで相手からお別れを告げられるパターン)歴代の彼女だけ。
アイドルになる前と辞めたあとの話だから安心して欲しい。
私がネコだから相手はプレッシャーにでも感じるんだろうか。
ワンナイトでお姉さんに抱いてもらった時に「なんいうか、受け身すぎて疲れるのよねぇ⋯⋯今日も誘ったのは私からでしょ。もうちょっと相手に対して自分から働きかけた方が良いわよ」と言われた。
愛されたくてアイドルになっていただけなんだと気づかせてもらった。
またVとしてスポットライトを浴びることを目指したのは、今度こそ「ファンの女の子のために輝く存在になる」ため。そして、同じ境遇の人たちを励ますため。
2つ目の目的は誰にも言ってない。
いつかは発信していきたい。
自分だったらもっとやれると思っていた。
と思ってはいた。理想だけは、高く持てていた。
いざ活動を始めると炎上を避けたいという事務所側の思惑に従っていた。立場としても強く出ることはできなかった。タレント的活動は個人でやるのは難しい以上、耐えるしかなかった。仕方がないと自分を納得させた。
本当はもっと色々な発信をしたかったけれど
その矢先のまさかの新ユニット行きに驚きを隠せなかった。
数字はあるから後輩を助けると思って力貸してあげてよ。の一点張り。同期から絡みにくい「キャラ」を振られているから火消しの為に無理矢理に後輩に接点を作り出そうとしているのだろう。
だから顔合わせの時は積極的に絡みに行った。
レイちゃんを見つけたのはその時だった。
わかりやすく緊張しているのが分かったので、手を握ってあげた。緊張を解すなら肉体的接触をするのが手っ取り早い。効果があったようだった。
まさかこんなに懐かれるとは思っていなかった。
たまにレイちゃんの雑談放送を見てると、推しのキャラクターは女の子しか居ないようなことを言っていた。最近の子は同性を推すことに抵抗がないらしい。
世の中は変わってないけれど、女の子が女の子のファンダムになることが一般的になったのは嬉しい変化だと思う。これがもっと大きい流れになったらいいのにな。
年下の子といえば、レイちゃんは良い子で、彼女と組めてよかったと思う。
てえてえと認知されたのはプラスだったと思う。急上昇に載る様になっても来た。
3D化も検討に入っているとマネージャーから聞いた。
時間になったので朝雑談を始める。
「私は女の子好きだよめっちゃ。K-popアイドルとか、勿論国内もね」
私の言う女の子が好き、は、恋愛感情も含んでるんだけどね⋯⋯
実際に、恋愛関係やロマンスの間柄になりたいという意味で好きなのは女の子で元カノもいて、エッチもしたことあるよって言ってしまいたい。
そんな特別な存在じゃないよ。眼の前にいるよって。
「ソシャゲはスタートレインみたいなやつはとりあえずはガチャだけ引いてる。推し?あぁ、推しなのはかっこいい女の子かな。髪は短すぎるのはオラついてるというか、オスっぽくて嫌かも⋯⋯」
辛辣ぅ!
そういうとこすき
やっぱりアヤちゃんはこうじゃないと
私おんなだけどここまで安心して推せるV初めてだわ
【白百合 ともえ】分かる。私はフェムでロングの子が好き。
「ともえさんからスパチャ来てる、女の子の話するとどこでも湧いてくるねw」
【白百合 ともえ】おい
「私は王子系もボーイッシュな子も好きだよ」
【白百合 ともえ】そこがわかんないわ
「やるか〜?戦争」
【白百合 ともえ】冗談よ
「⋯⋯まあいいや、で、ごめん、オスっぽいは、なんていうか言い方悪いか、でも苦手だから許して」
嫌いではないといえば嘘になるけどね。
興味もないし好きじゃない。私の競合相手だから。
「あやめいとちゃんは無条件に愛を送ってるよ」
「下心って、違うよ。おんにゃのこには好かれたいでしょ誰だって」
【白百合 ともえ】それはそう
たまに羨ましくなる。簡単に女の子「も」好きって言えて。
私は女の子以外迎え入れるつもりはない。周りから頑なすぎる言われてきて、それが悔しくて負けたくなくて、意志を変えたくなかった。
ENにも女の子「が」好きな子は居ない。
この前コラボしたENの子に「セクシャリティはこっちでは揺れるものだから決めつけるのはまだ早いと思いますよ」と聞かされたが私にとっては、好きになる性別はずっと変わらないもので、それはこの先の人生も同じだという思いは変えることができなかった。これは私が決めたことだ。
もやもやしていた頃に、私の前に現れたのがレイちゃんだった。
壁で隣から見ていると、気が利くし、熟考して言葉を話そうとする所も好感が持てるし、ゲームも男の子に混じってやるほど上手くて、いつも私に会うと喜んでくれるし優しくしてくれる。つい最近近くに引っ越してきたらしい。こんな子がノンケじゃなかったらいいな⋯⋯
「そうだ、今日も壁やるから見てね」
レイちゃんが気になってるなんて言えるはずないけどね。
だから今日もくっつかせてね⋯⋯
⋯⋯ごめんね、臆病で。ずるくて。
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