まじわらない視線

さわらに たの

第1話 まじわらない視線

 わかってた。

 わたしの視線は、彼と決して交わることがない。

 だって、いつだってあなたは、”あの子”を見ていたから。



 「ハナ~! あたしたち、また同じクラスだよ!」

 「マジで!? やったねマリ!!」


 驚いたふりをしたけれど、本当は知っていた。

 一番最初に探したのは、あなたの名前だったから。


 鈴木 花(すずき はな)。

 平凡な名前に、平凡なスペックのわたし。

 佐枝 茉莉花(さえぐさ まつりか)。

 華やかで、かわいくて、誰からも愛される存在。


 「おーっ、また”ハナハナコンビ”一緒かよ!」


 佐伯くんが、声をかけてくる。

 そうだよね、マリと話したいから。


 佐伯、佐枝、そして鈴木。

 クラスが一緒になると、いつもわたしたち三人は並んで、その縁でよく話して。

 そして――

 優しくてよく笑う佐伯くんのことを、わたしは好きになった。

 

 なんだか、柴犬みたいなんだよね。

 話しかけてくるときに生き生きした目が、なんだか、お爺ちゃんの家にいるコロと似てる。男の子なのに可愛くて、なんだか話してるとあったかい気持ちになるの。

 笑うとくしゃっと目がなくなっちゃうところも、明るい話声も、身振り手振りがちょっと大袈裟でそれを自分でたまに「あっ」って恥ずかしがるところも、可愛い。


 でも。

 

 「そうよ、あたしとハナの絆は宇宙の真理ってコト!」

 

 「マリ、ちょっと規模がデカ過ぎねーか、それ」


 マリが無邪気に笑って、佐伯くんがツッコむ。

 うん、わたしだって嬉しい。だって、マリのこと好きだもん。優しくて、可愛くて――でも、素直に喜べない。


 だって、佐伯くんは授業中、ずっとマリばかり見てるから。


 わかるよ。だってマリ、女から見ても魅力的だもん。

 かわいくて、性格も良くて、テニス部の代表選手で運動神経も抜群。家では日舞もやってて、この間も校長先生から賞状を直々に貰ってたっけ。


 「あれ、どした鈴木? 元気ねーじゃん。同じクラスで嬉しくねーの?」


 嬉しくないわけじゃない。

 でも、ほら。

 わたしは”鈴木”、マリは”マリ”。

 距離が遠い。


 「な、何でもない!」


 「なんでもなくねーじゃん、なんかあったんだろ? ほら」


 佐伯くんが覗き込んでくる。

 変な顔をして、おどけて。


「なに、その顔」 

 

 つい、噴き出して笑っちゃう。 

 わたしが笑うと、佐伯くんも笑った。

 

 ――こうやって、みんなに優しいから、好きになっちゃうんだよ……。


 「あのさぁ……。誤解しちゃうから、やめたほうがいいよ。わかってるよ。佐伯くんが好きなのは、マリだって」


 できるだけ、軽い口調で言った。

 言わずには、いられなかった。


 その瞬間。


 「は??? え???」


 佐伯くんが、なぜか真っ赤になって固まる。


 そしてその隣で、マリがきょとんとしたあと、お腹を抱えて笑い転げ始めた。


 「え?  え?」

 

 混乱するわたし。


 「ちょっとまって、ウケる、ちょっと、ひっどいよ、ハナ!  鈍感すぎ!」


 「??? だって、授業中もずっと佐伯くん、マリのほうばっかり見て……」


 「ちげーよ! あれは時計! 時計みてたよ!! 早く授業終わんねーかなって見てただけ!  俺、授業サボりたい系男子だから!」


 佐伯くんが大きな声でそういってぶんぶんと腕を振る。


「違うの? だってわたしとは一回も目線あわなかったのに」


 そう言って首をかしげるとなぜか佐伯君はぐっと唇を引き結んだ。

 

 「あのさぁ……」


 「???」


 「鈴木のことなんて、恥ずかしくて見れるわけねーじゃん……」


 「……」


 今度はわたしが固まる番だった。


 あれ、それって、その、つまり???




 好きな人の、好きな人。




 「わ、わたし?」



 声が上ずる。

 笑い続けるマリ。


 目の前で真っ赤になった佐伯くんが横を向いて恥ずかしそうに、でもしっかりと、こくりと一度だけ、頷いた。


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まじわらない視線 さわらに たの @sawaranitano

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