量子の世界 (南少佐シリーズ③)
✿モンテ✣クリスト✿
登場人物と背景
前置き
1902年生まれの千鶴と辰麿は、1922年、アインシュタインの日本訪問の時、20歳になっていた。戦前の旧制教育制度では、大学卒業は22歳以降だったが、21世紀にはない飛び級という制度があり、千鶴と辰麿は東京帝国大学を卒業する年だった。
クララとヘレナの血を受け継ぎ、英蘭系の欧州人の風貌に南の東洋人の混血が千鶴と辰麿をエキゾチックな存在にしていた。アインシュタインの慶応大学の講演会に出席していた二人は、彼の目に止まった。
「キミらは欧州人なのかね?」とドイツ語で二人に聞くアインシュタイン。「いいえ、ドクトル、私たちは日本人です」とフランス語で流暢に答える千鶴。
アインシュタインは上海、日本、パレスチナと続いた長い世界旅行を終え、1924年、ベルリンへ帰国した。
1924年、大学院で物理学博士過程に進んでいた二人にアインシュタインから招待状が届いた。日本で出会ってから二人が次々と国際的な論文を発表しているのにノーベル賞学者は気づいていたのだ。
「ドイツ、ポツダムのアインシュタイン研究所で研究をしなさい」と招待状には書いてあった。
量子力学の勃興期に、数奇な運命で、アインシュタイン、ボーア、パウリ、ハイゼンベルグなどの大学者を向こうに回して量子力学の深淵に挑む二人。そして、千鶴と 辰麿の社交界デビューが待っていた。
登場人物
◯
生年:1874年
1945年時点の年齢:71歳
役割:元中佐、南家の家長
特徴:日露戦争で活躍後、パリで財を築き、湯島と軽井沢で家族と暮らす。終戦時は車椅子で、軍部の愚かさに悔恨を感じる。
◯クララ
生年:1876年
1945年時点の年齢:69歳
役割:南の正妻、千鶴の母
特徴:南アフリカ出身の敬虔なプロテスタント。家族を支えつつ、信仰と奔放な生活の間で葛藤。終戦時に科学の果てに涙する。
◯ヘレナ
生年:1884年
1945年時点の年齢:61歳
役割:南の第二婦人、戸籍上は養女、
特徴:奔放で妖艶、社交界で活躍。家族の精神的支柱として、終戦時に力強い叫びで鼓舞する。
◯
生年:1902年
1945年時点の年齢:43歳
役割:クララと南の娘、物理学者、瑠璃の母
特徴:ヘレナの性欲と知性を継ぎ、社交界で男性を魅了。
◯
生年:1902年
1945年時点の年齢:43歳
役割:ヘレナと南の息子、戸籍上クララの子、物理学者、悠馬の父
特徴:控えめだが知性深く、千鶴と対照的。禁断の行為に葛藤しつつも千鶴と一夜を共にする。研究に没頭。
◯
生年:1890年
1945年時点の年齢:55歳
役割:南家のメイド
特徴:家族に献身的で、終戦時も静かに支える。穏やかで控えめな存在。
◯
生年:1927年
1945年時点の年齢:18歳
役割:千鶴とハインリヒの娘
特徴:母に引き取られ成長。物語の終盤で母と共に新たな決意を共有。
◯
生年:1927年
1945年時点の年齢:18歳
役割:
特徴:父に引き取られ成長。終戦時に父と共に未来を見据える。
◯
生年:1930年
1945年時点の年齢:15歳
役割:千鶴と
特徴:禁断の愛の結晶として生まれ、世間に秘密にされる。
◯
生年:1930年
1945年時点の年齢:15歳
役割:
特徴:三人の関係から生まれ、戸籍上
◯アルベルト・アインシュタイン
生年:1879年
没年:1955年
1945年時点の年齢:66歳
役割:著名な物理学者、千鶴と
特徴:1922年に二人と出会い、1924年に研究所に招待。ナチスから亡命し、マンハッタン計画に関与。
◯ニールス・ボーア
生年:1885年
没年:1962年
1945年時点の年齢:60歳
役割:著名な物理学者、ポツダム研究所の議論相手
特徴:量子力学の確率論を支持し、アインシュタインと対立。千鶴の理論を支持する立場。
◯ヴォルフガング・パウリ
生年:1900年
没年:1958年
1945年時点の年齢:45歳
役割:著名な物理学者、ポツダム研究所の議論相手
特徴:ナイトクラブ好きで知られ、ヘレナとコミカルなやり取り。排除原理で有名。
◯ヴェルナー・ハイゼンベルグ
生年:1901年
没年:1976年
1945年時点の年齢:44歳
役割:著名な物理学者、ポツダム研究所の議論相手
特徴:不確定性原理の提唱者。アインシュタインと議論し、ヘレナに予測不能性を指摘される。
◯フリードリヒ・フォン・ホーエンツォレルン
生年:1898年
没年:1966年
1945年時点の年齢:47歳
役割:千鶴の社交界での一時的な相手、プロイセン貴族
特徴:金髪と青い瞳で千鶴を口説くが、物理学に無理解で関係は終わる。
◯マリー・フォン・ビスマルク
生年:1902年
没年:1980年
1945年時点の年齢:43歳
役割:
特徴:
◯ハインリヒ・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン
生年:1899年
没年:1970年
1945年時点の年齢:46歳
役割:千鶴の夫、貴族
特徴:千鶴と1926年に結婚、1928年に離婚。物理学に理解がなく、瑠璃の父。
◯エリザベート・フォン・ザクセン
生年:1903年
没年:1976年
1945年時点の年齢:42歳
役割:
特徴:
家族構成と血縁関係
子世代:
千鶴:クララと南辰之助の娘。
※
孫世代:
◯
母:千鶴(クララと南辰之助の子)。
父:ハインリヒ・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン(貴族、ドイツ人)。
血縁:南辰之助とクララの孫娘
1945年時点の年齢:18歳
◯
父:
母:エリザベート・フォン・ザクセン(貴族、ドイツ人)
血縁:南辰之助とヘレナの孫息子
1945年時点の年齢:18歳
◯
父:
母:
血縁:南辰之助と
1945年時点の年齢:15歳
◯
母:千鶴(クララと南辰之助の子)
父:
血縁:南辰之助の孫息子(千鶴と
1945年時点の年齢:15歳
近親相姦が発生する組み合わせ
近親相姦とは、血縁関係が近い者同士(通常、親子、兄弟姉妹、叔父・叔母と甥・姪、いとこなど)の間で性的関係が発生するケースを指す。ここでは、瑠璃、悠馬、瑛太、麗華の4人の子供たちの中で、血縁関係に基づく近親相姦の可能性を記述。
①
②
③
前日譚
南少佐と三人のメイド
1904年、ロシア帝国と日本との軋轢が高まり、2月8日、旅順港に停泊中のロシア軍艦に日本の水雷艇が奇襲攻撃(宣戦布告は10日、ただし最後通牒は6日に手交されていた)し、日露戦争が始まった。
太平洋艦隊と日本海軍はほぼ同等の戦力で、ロシア海軍はバルト海所在の艦艇をも加えることで戦力的に上回ることを図り、第二太平洋艦隊を編成して極東方面に増派することを5月に発表した。司令長官には侍従武官であったジノヴィー・ロジェストヴェンスキー少将(航海中に中将に昇進)が任命され、主力たるボロジノ級戦艦の完成を待ち10月に出発した。
翌年、1905年、旅順要塞の陥落により旅順艦隊が壊滅すると、バルト海艦隊の残りの艦からさらに第三太平洋艦隊を編成し、2月に極東へ送り出した。この結果、ロシア海軍は黒海の外に出撃できない黒海艦隊を除いて戦力のほとんどが日露戦争に動員されることになった。日本ではこれら第二・第三太平洋艦隊を指して「バルチック艦隊」と呼ぶ。
日露戦争開戦の三年前、1901年。大日本帝国陸軍参謀本部は、南辰之助少佐を在エチオピア日本大使館の駐在武官とし、アフリカ方面諜報担当を拝命、アジス・アベバに派遣した。
南の任務は、日露戦争開戦時には、バルチック艦隊がアフリカ沿岸を通過する可能性を見据え、マダガスカル島からコンゴ、中央アフリカに至る広範囲の動静を探ることだった。ロシアの野心がアフリカにも及んでいる中、彼の目は鋭く諸国の情勢を見据えていた。
アジス・アベバでホテル住まいを止め、コロニアル風邸宅を借りて住むことにした南は、商人アブドゥルからエチオピア人の漆黒の肌を持つ官能的な姉妹、アビツェとマリアムをメイドに雇うことにした。
エチオピアの風習では、メイドは主人の夜の相手も務めることが暗黙の了解だった。姉アビツェは言葉なくとも夜な夜な南の寝室を訪れ、最初は戸惑い拒んだ彼を、蠱惑的な仕草と熟練した愛撫で虜にしていった。南は任務に厳格な軍人だったが、彼女の熱い肌と甘い吐息に抗えず、やがてその関係を受け入れた。それを覗き見た妹マリアムも南に関係を迫った。
商人アブドゥルは、「没落したボーア人の家の一人っ子の17歳の嬢ちゃんがいるんですがね、金髪碧眼、英国系の美少女ですわ。旦那さんももう一人くらいメイドを雇っても家事仕事はおありでしょう?」と言われ、その少女、ヘレナ・ファン・デル・メルウェを雇ってしまった。
彼女は、17歳とは思えぬ落ち着きと気品を漂わせていたが、その清楚な外見の下には、鋭い知性と狡猾な野心が潜んでいた。エチオピア人姉妹との軋轢をうまくかわして、姉妹を操りだす美少女。
やがて、1901年の終わり、南の任務は新たな局面を迎えた。バルチック艦隊の動向が明確になりつつあったが、その航路は依然として不明だった。困難な喜望峰周りを選ぶのか、スエズ運河経由で来るのか、情報は錯綜していた。南の後任の士官が着任することになり、彼にアフリカ東部の監視を任せ、南辰之助はスエズ運河の地中海側の入口であるポート・サイドへと移る命令を受けた。
アジス・アベバを去る前、南は給料の半分をアビツェとマリアム姉妹に渡した。後任の士官に推薦してメイドを続けられるようにするという南に、「旦那様以上のお方がおられるとも思えません。十分なお手当もいただきましたし、私たちは実家に帰ります」と答え、姉妹は実家に帰ることになった。
「ヘレナはどうするんだ?南アに帰るのか?」と尋ねると、ウルウルして困惑するヘレナ。「帰る家などありません!母の妹の叔母も養わなければいけません」と悲しそうに答えた。
南少佐と二人のメイド
南は渋々ながらもヘレナと叔母をポート・サイドに連れて行くことを了承した。ヘレナの叔母は、クララ・ファン・デル・メルウェ。27歳の彼女は、確かにヘレナの言葉通り絶世の美女だった。金髪はヘレナよりも濃く、深い琥珀色に輝き、瞳は淡いグリーンを帯びて妖艶に光っていた。
ボーア人の血を濃く受け継いだその顔立ちは気高く、豊満な胸と引き締まった腰は、27歳とは思えぬ若々しさと成熟を兼ね備えていたが、ヘレナの狡猾さとは異なる穏やかな魅力が宿っていた。そして、彼女は敬虔なクリスチャンだった。しかし、ヘレナと同じ、内には秘めた肉欲も多分に隠し持っていた。
ある夜、彼女の手が「うっかり」南の膝に触れ、そのまま太腿へと滑ったことで、クララは南と情交を始めてしまう。彼女は南の胸に跨り、薄いドレスをたくし上げた。白い太腿が月光に照らされ、豊満な尻が彼の硬くなったものに擦りつけられた。
その夜以来、ヘレナとクララは南を巡る新たな均衡を築いた。ヘレナは狡猾に南を誘惑しつつ、クララに「叔母さん、私と一緒に旦那様を悦ばせましょう」と持ちかけ、二人の白い肉体を南に捧げた。信仰と情交の間でクララは苦しむが、彼女の肉欲がかってしまった。南と二人のメイドの奇妙な生活が始まった。
南少佐と四人のメイド
陸軍参謀本部の指令で、南少佐はバルチック艦隊が喜望峰航路をとった場合寄港するであろうマダガスカル島に急遽出張することになった。
出張の準備をしている時、ヘレナとクララの妊娠が発覚した。彼女たちをマダガスカル島に連れていけないことになった。ヘレナの機転で、アビツェとマリアムをエチオピアから呼び寄せ、マダガスカル島へ南の世話のために同道させる手筈にした。
クララは、姉妹に会ったことがなかったが、ヘレナから南との関係を聞いていた。嫉妬に苦しむクララ。しかし、ヘレナに説得され、姉妹が南と旅立つのをしぶしぶ了承した。
やがて、クララとヘレナが出産する。エジプトに急遽帰る南。
まずクララの出産が始まり、数時間の苦しみの末、女の子「千鶴・メルウェ」が生まれた。彼女の小さな泣き声が響き、南は赤子を抱き、クララの穏やかな笑顔に安堵した。その数時間後、ヘレナの陣痛がピークに達し、男の子「辰麿・メルウェ」が生まれた。千鶴が姉、辰麿が弟としてこの世に迎えられた瞬間だった。
クララの子は妻として認知できるが、養女であるヘレナの子はどうすればいいのか、南は悩んだ。ヘレナがこともなげに「クララ叔母様が二人産んだことにすればいいのよ。それで、二人の母親をクララ叔母様と戸籍に登録すればいいだけでしょう?あ!私は少佐とクララ叔母様の養女だから、二人の赤ん坊の姉になるのね?まあ!」と提案した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます