第四章

 それから数日の間、レイラと『ああああ』は村で聞き込みをしたり、村周辺のモンスターとの戦いを繰り返しながら日々を過ごした。レイラは、村の人々に助けてもらいながら本の使い方を覚え、少しずつ強くなっていく自分に自信を持ち始めていた。そして、ついにその日がやってきた。


「レイラさん、『ああああ』さん。今日は神父様の話によると、近くの村で催し物がある日だそうです」


 宿屋で朝食をとっていると、老人が話しかけてきた。レイラは目を輝かせた。


「本当ですか!? ぜひ行ってみたいです!」


 老人は頷き、机の上に地図を広げた。


「この村から少し西に行くと、小さな村があります。どうやらそこで開かれるようですよ」


 レイラは老人の話を聞き、胸が高鳴るのを感じた。『ああああ』を見ると、彼もまた興味深そうに地図を眺めていた。二人はすぐに支度を整え、宿屋を後にした。村の人々は手を振って二人を見送った。


 道の途中で歩きながら、レイラは自分の持つシンデレラの本を開く。自分の本とその能力を確認しておきたいと思ったからだ。


「ねぇ、『ああああ』。コウモリと戦った時みたいに光を操るのってやっぱり難しいのかな?灰を出すのは簡単に出来るんだけど……」


 レイラは手から灰を出して操って見せた。『ああああ』は守り人ではあるが本の能力には詳しくない為、歩きながらそれを見守る。そしてようやく次の村が見えてくる。


「えっと、ビツヒ村だっけ?そろそろ着きそうだね」


 レイラは歩きながら呟く。そして村の入口に着くなり、ピンク色の服を着た男性の村人が声をかけてきた。


「お、あんたら、旅人かい?良い日に来たもんだ!今日はモモちゃんのステージがあるから見ていってくれよ!」


「は……はぁ……」


 村人はまくしたてるように喋り掛ける。この村で『モモちゃん』とかいう人の舞台か何かが行われるようだ。それを聞いた後二人は村に入る。村は催し物の準備の為なのか行き交う人が多く、そのほとんどがピンクの服を着て歩いている。


「なんだか少し変な村だね、皆ピンク色の服を着てる……」


 レイラと『ああああ』は周りの様子を訝しく思いながらも進んで行くと、村の中に少し大きな舞台が建築されているのを発見する。その周りには座る為のベンチが並ぶ。


「ここでやるみたいね、ステージ」


 隣で『ああああ』が頷くと、また別の女性の村人がチラシを持って声をかけてくる。


「こんにちは、旅の方々かしら?今日は思いっきり楽しんでちょうだい」


「あ、ありがとうございます。へぇ、これが今日のステージの内容か……」


 レイラがチラシを受け取って、その内容を確認する。隣で『ああああ』がそれを覗き込む。そこには一人の少女の絵が大きく書かれており、名前と思しき文字やステージでどんなことが行われるかが書いてあるようだが、レイラには読めなかった。


「ごめん、『ああああ』読める?私、会話はできるけど文字は読めないっぽくて」


 レイラはチラシを『ああああ』の方に向け、自分の代わりに読んで貰おうとした。『ああああ』はそれを受け取り、その文章の内容をレイラに伝える。


「なるほど、アイドルの『モモちゃん』っていう娘のショーをやるのね?もしかしてこの娘もこっちに転送された人だったりして」


 冗談を言うレイラとは反対に『ああああ』は冷静にチラシをレイラに返す。有り得ない話ではないが、そうすると少しでも早く彼女を保護する必要がある。『ああああ』は少し考え、まずはこの村の宿屋を取り、ショーの開始を待つことを提案する。


「うん、そうしようか。あ、お腹が空いてきたしご飯も食べていい?」


 レイラがそう言うと『ああああ』は頷く。二人は村の中でレストランを探して食事を取った後、宿屋を確保してショーが開催される時間まで待った。



 そして夕暮れ時、二人は宿屋を出て村のあちこちで灯りが灯るのを見ながらステージの方へ向かう。ステージの周りはより一層明るくなっており、ピンク色の服を着た人々はベンチに座って今か今かと開始を待っている。


「なんだか凄い熱気ね、そんなに人気なのかな。このモモちゃんって娘」


 レイラは畳んでいたチラシを広げる。相変わらず文字は読めないが、ステージ衣装と思われる絵が描かれており、その横にモモちゃんのプロフィールとして年齢や性格などが書かれているようだ。


 そうこうしているうちに開始の合図が鳴り、ステージに注目が当たる。そこにはピンク色の髪をした少女が立っていた。少女は少し緊張しているようで、深呼吸をする。そしてゆっくりと語り出した。


「皆さーん!モモでーす!今日は私に会いに来てくれてありがとうございます!私の歌をたっくさん聴いていってくださいね!」


 そう言うと彼女は歌い、踊り出す。彼女の歌声はとても綺麗で、まるでレイラはマイクやスポットライトがあるかのように錯覚するほどだった。隣で『ああああ』も静かに聞き入っている。レイラは彼女の歌う姿と声、そしてその踊りに魅了された。村人達の中には


「モモちゃーん!」「今日も可愛いよー!」


 と応援している者もいる。モモのステージが終わると周りの人々は拍手喝采を送る。どうやらショーは大成功だったようだ。観客たちは満足そうな笑みを浮かべている。レイラもまたその一人であり、この素晴らしいショーを見られたことに感謝した。


「凄いショーだったね!まさかあんなに素敵な歌を歌うなんて」


 レイラと『ああああ』は興奮冷めやらぬといった感じで宿へと戻っていった。村人の中に怪しい影が居ることも気付かずに……

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戦士『ああああ』の冒険譚~どこかで見たような懐かしい見た目でも油断しないように~ @5000type-R

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