第10話 殺意

 まだもやが掛かる畑で鍬を振るうエリザベートの事をハンスは眩しく見つめていた。


 それは雲を割って差し込む朝日を彼女のプラチナブロンドがキラキラと弾いているからだけではない。


 ひと鍬ひと鍬と確かめる様に畑を耕すその姿が、真摯な彼女の生き様を表している様に思えたからだ。


「やはり美しい人だ!姿形だけでは無く……」


 サクッ!

 鍬を振り下ろしたままにしてエリザベートはハンスの方へ振り返る。

「おはよう!昨日は失礼した。慣れぬ客人に気疲れしたようだ。せっかく来てくれたそなたを袖にして寝入ってしまい、今朝は今朝でそなたが活けてくれたガーデニアの香りに起こされた。まったく不甲斐ない事よ」


「滅相もございません。花を抱きお休みになられた姫様のお顔は神々しくもあられました。」


「従士というのは口も達者なのか?」


「私は心のままを申したまで、ご無礼をお許し下さい」


「よかろう!ここへ来て私と立ち会ってくれたらな!」

 そう言ってエリザベートは鍬の刃床を踏んで引き抜き抜いたを構えた。


「では、私もこの木の枝で木刀をしつらえます故、少々お待ちを」


 ハンスが腰のを抜くとエリザベートは手に持ったつかを捻じり引き、刀身をスラリ!と一振りして今度はで朝日を弾いた。


「木刀など不要! そなたの剣との手合わせを所望する! こちらは足場の悪い畦の中!“百姓”を侮るなよ!」


 エリザベートはハンスを見据えると微かに笑った。

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