第5話 覚醒

 左手に杖の“鞘”を右手につかを握った従士ハンスはしばし目を閉じた。


「念を送っているのか?!」


「その様にものではございませぬ。あなた様を御護りする“同士”として語り掛けておるのです」


 やがて、握り締めた柄から生まれた光が杖全体を包み、ハンスは目を開けた。


「話は済みました! ではこの業物わざものの真の力をお見せしましょう」

 ハンスは“居合腰”となりスパン!と刀をた。


「斬られた!!」

 エリザベートがそう感じたのは言うまでもない。

 一瞬であったが刀身が自分の胸の下を通った筈だ!

 しかし自分は……一滴の血はおろか微かな息一筋さえも洩れてはいない。


 ただ周りを取り囲んでいた大木の全てが薙ぎ払われているだけだ。


 エリザベートは驚きを隠せずに呟いた。

「そのは母が私を身籠った時に、祖父が当代随一の刀剣師と魔法師に日参して作らせたと聞いていたが、この様な力があったとは……私は己の腕を過信していた様だ」


 ハンスは微笑み、申し述べる。

「失礼ながら先程の大木への一太刀はあなた様の力量でございます。刀のは先程の賊の内に潜みし“魔”を祓ったのみ。悲観なされるな」


 一礼して刀を返そうとするハンスにエリザベートは頭を振った。


「私はその刀を使いこなすことができない。があるそなたが持つべきであろう」


「いいえ!この刀はあくまであなた様のしもべです!」


 そう言ってハンスも譲らなかった。





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