第33話 鴇の想い

紅玉は薬師の元で眠っていた。

暑苦しそうに息を切らし、鴇は深刻な表情で紅玉を見る。

先日、孔雀に伝えられたのは翠色の事と隣国の事。

ひとまずここで翠色達を待つ他ないが、戦となればこちらの国も危ないことが目に見えていた。

紅玉は薬を打ってもらい、今は安静にしている。

何日か寝ていることを見るに、動ける状態でないことが確実だった。

そんな時、もし刺客が襲ってきたら紅玉を守れるのは鴇だけである。

鴇は自分には守れるのかと緊張を浮かべ、常に警戒していた。

それでも翠色に託されたのだ。

守る他ない。

何日も、何日も。

紅玉の隣で寝て起きてを繰り返している。

「鴇さん」

誰かが声をかけた。

うつらうつらと眠そうにしていた鴇はビクリと飛び起きる。

振り向くと、そこには薬師が居た。

「鴇さん、少しはおやすみになられてはどうですか? 湯を沸かしましたので、どうぞお浸かりに」

「いえ、そんなわけには行きません。ボクは託されたんです、この人を。ですからしっかりと守らねば」

鴇の目にはクマが浮かんでいる。

どう見ても無理をしている様子を見兼ね、薬氏は首を横に振る。

「誰かに託されたとしても、誰かに守れと言われても。それでもあなたはただの人間です。無理して闘うべきではない、そうでは?」

鴇は黙る。

疲労が溜まったこの身体を一瞬でも落ち着かせたい気持ちも確かにある。

信用して良いのだろうか?

この薬師ももしかしたら。

鴇はむやみに向けるべきではない不信の思いを振り払い、やっと頷く。

「分かりました、少し、休みます」

「そうしてください、無理はせずに」

「はい……」

鴇は廊下を渡り、部屋に入る。

朦朧としたような眠気を感じながらその重い足取りで。

簪を取り、着物を脱いでその束ねていた長い髪を下ろす。

そうして、風呂に入る。

温かい湯の中。

全身を覆っていた寒気や眠気が洗い流された。

肌にじんわりと染み込んでいく感覚に、鴇は懐かしいものを感じた。

「何年ぶりだろう、風呂に入るの」

鴇は貧しい家の生まれなばかり、一年に一度ほどしか湯に浸かることができなかった。

姉を養うための裏の仕事はたいして金も入らず、鴇にとってそれは憂鬱な日々だった。

その日々から救ってくれた翠色と紅玉には恩義がある。

だからせめて今だけでも、あの二人に恩返しができるようになりたい。

「ボクは最後まで諦めない」

鴇は固い決意を胸に、紅玉のいる部屋へと戻っていった。

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