第25話 稽古

集落に入ると、鴇は集落の長に理由を話した。

翠色と紅玉の身分の違いを伏せた上で、紅玉が命を狙われていることを語る。

なんとか了承を得ることに成功し、無事匿ってもらうこととなった。

集落の人達は温かい。

余計な詮索をすることもなく、家族のように二人を迎えてくれた。

この集落自体、いわゆる訳ありの人間が多いとのこと。

捨て子であったり、元孤児である他、戦の経験者や裏社会で生きていたような人間も居る。

貧困にも苦しんで居るからこそ、皆余計なことにも触れず、助け合って過ごしている。

質素な食事と寝床。

畑しかないような場所だが、確かにそこには人の作る平和があった。

鴇はその中、考えていた。

大切な人を守れるように強くなりたい、と。

かつて、悪党どもに下っ端にされ、絶対的に逆らえなかったあの悔しさ。

姉と生活を人質に取られ、仕方なく従わされていた事。

あれは自分が弱かったから。

だから強くなりたい。

今度こそ、この手で取り返す。

今あるものも守る。

そう心に誓うと、翠色に鴇は申し出る。

「稽古をつけてください!」と。

翠色はそれを承諾し、毎日鴇に稽古を付けた。

翠色も一国の侍。

幼い頃から鍛え上げられただけあって腕は確かにあった。

着実にその技や体の使い方を身に着けていく鴇であった。

翠色の剣捌きを相手にしても、鴇は渡り合えるほどの成長を見せていた。

翠色は刀を振るう。

鴇がそれを落とし、前へ前進しながら突きを放つ。

カン、と木刀の音がすると突きは弾かれた。

その揺らぎに翠色は差し掛かるがそれを躱して見せる鴇であった。

その場に緊張感が漂い、二人は睨み合いながら向かい合う。

翠色は体を揺さぶる。

鴇の死角へ回り込み、鴇へ攻撃が繰り出される。

鴇は体を反転させ刀を打ち込んだ。

二人の攻撃がせめぎ合い、素早い太刀筋が描かれていく。

切っ先が互いの頬を掠め、ふっと息をついた翠色。

二人は礼をし、汗を拭う。

「鴇、随分と上手くなったもんじゃないか。その成長ぶり、その調子だ」

「ありがとうございます、師匠」

鴇は物覚えが早いようだ。

もう少しすれば実践に役立つだろうことを翠色は予測していた。

同時に、鴇もとある武器を使い始めていたのだった。

翠色に教わり始めているもう一つの術である。

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