第5話 夜
夜が訪れた。
深い色の夜空に朧げな星屑が彩る。
ジーン、ジーンと、蝉の鳴き声が耳に障る。
二人はその最中、丘の木の影で眠っていた。
「まだ起きてる?」と、紅玉。
「起きてます」と、翠色。
身をよじるようにしながら、紅玉は尋ねた。
「なんで、埋葬を手伝ったの?」
「それは………………」
「理由が気になっただけ」
翠色は深く息をつき、語る。
「紅玉様は私にはないものを持っています。両親に厳しく育てられた私と違って、紅玉様には温かさがあります」
「温かさ?」
「はい。私は見ての通り、機械のように淡々としています。いつからか感情が希薄になったのでしょう。でも、翠色様を見ていると私の中の何かが動き出します。懐かしいような、嬉しいような、いえ、感情が蘇るような、そんな不思議な感覚になるのです」
「それは良かった。いつも淡々としてるから、少し心配したわ。敬語なんて使わずに話してもいいのよ、同い年だし」
紅玉がそうやって苦笑を浮かべ、翠色の胸はどこか苦しくなった。
「あれ…………おかしいな………なんで、なんでこんなものが…………」
ひたり、ひたり。
翠色の頬を伝い、膝下に染み付く何か。
翠色の瞳から、涙が出てくるのだ。
それはかつて殺していた感情、悲しみ。
翠色はずっと我慢していたものを、溜め込んでいたその感情を吐き出すようにひたすら涙を流した。
胸が苦しい、自分はこうなりたかったんじゃない。
こんな冷たい人間にはなりたくなかった。
本当なら、もっと。
“普通”に生まれたかった。
そんな思いが翠色の胸に溢れ、それが悲しみを生む。
それを見た紅玉は、ふと微笑んで翠色に寄り添う。
そして翠色を抱き寄せた。
紅玉は優しい声で言う。
「大丈夫、安心して。私があなたの味方。思う存分、ここで吐き出して。辛い思いも、悲しい日々も、この夜だけ、叫んでいいよ」
「ありがとう、ありがとう! ありがとうごさいます…………紅玉様………!」
感謝の言葉が翠色の口から零れ出る。
翠色の苦しみを優しく包むように、紅玉は翠色の思いを肯定してくれた。
ただその暖かさが翠色の涙を拭う。
夏の静寂の中、そんな二人の姿が映る。
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