『フードファイト・アリーナ 〜VR厨房で輝く青春〜』

Algo Lighter アルゴライター

プロローグ フードファイト・アリーナの時代

二十一世紀も後半に差し掛かった時代、世界は技術革新によってかつてないほどの変化を遂げていた。VR(仮想現実)とAI(人工知能)の進化は、現実とデジタルの境界を曖昧にし、人々の生活に深く根付いていた。


その中でも、特に人々の関心を集めたのは「eスポーツ」の世界だった。


かつてはFPSやMOBA、レーシングゲームが主流だったが、技術の進化とともに新たなジャンルが台頭した。その代表的なものが「フードファイト・アリーナ」──通称「FFA」だった。


これは単なる料理ゲームではない。


プレイヤーはVR空間の中でシェフとなり、実際の調理プロセスを精密にシミュレートしながら競い合う。包丁の切れ味、火加減の調整、調味料の配分、盛り付けの美しさ……すべてがAIによって精密に評価される。さらに、リアルの料理業界の巨匠たちがFFAに参入し、競技のレベルは年々上がっていた。


「料理の世界に革命が起きた」


多くの評論家がそう語るように、FFAは単なるエンターテインメントを超え、フードビジネスの未来そのものとなっていた。


VRの中で生み出されたレシピが実際のレストランメニューとして採用され、FFAで優勝したシェフはリアルの料理界でもスターとなる。もはや「現実」と「仮想」の区別は無意味になりつつあった。


そんな時代の中で、ひとりの少年が野心を抱いていた。


──天海 響(あまみ・ひびき)。


幼い頃から料理人の父の背中を見て育った彼は、VRの料理バトルに夢を見ていた。現実の厨房にはほとんど立ったことはないが、FFAの世界ではトッププレイヤーの一角に食い込んでいた。


そして、彼が目指すのはただひとつ。


FFA世界大会優勝──そして、「料理の王」になること。


だが、彼はまだ知らなかった。


料理とは、ただ技術を競うものではないということを。


このデジタルの時代においても、最後に人の心を動かすのは、スクリーンの向こう側にはない、“本物の味”なのだということを。


その事実を突きつけられる瞬間が、すぐそこまで迫っていた──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る