大好きなあなたと醜い自分

美杉。(美杉日和。)節約令嬢発売中!

第1話

「ひろ……くん」


 放課後、夕陽が降り注ぐ校庭で、彼は真っすぐに一人を見つめていた。


 私だけが知っている彼の秘密。

 彼はいつも同じ人をずっと見ていた。


 陸上部に所属するナツミ。

 野球部の彼、ヒロトはいつもナツミだけを見ている。


 なぜ私だけがそのことを知っているのか。

 答えは簡単だ。

 

 私はそんな彼も、彼が見つめる先にいるナツミも見ているから。


 初めはただの偶然かと思った。

 だけどいつでもヒロトの視線はナツミを追いかけている。


 そんなこと知りたくもなかったのに。


「あれー? 二人とも、もう部活終わり?」


 ナツミがこちらを見て大きく手を振った。

 私は精一杯の笑みを浮かべる。


「私は終わったよ。ヒロくんは?」


 私が後ろにいるとは思わなかったのか、ヒロトはやや驚いたように視線をこちらに向けた。


 大丈夫だよ。

 ずっと知っているもの。


 ふんわりと笑えば、ヒロトはごまかすように鼻の頭をかいた。


「一緒にかえろー」


 無邪気なナツミは、どこまでも嬉しそう。

 

 ねえ知ってる?

 私はあなたのことが好きなヒロトが好きなんだよ。


 そんな無邪気に微笑まないでよ。

 本当は一緒になんて帰りたくもない。

 一緒になんていたくもない。


 私はヒロトだけが……。


 どんどんとナツミといると、自分が醜くなっていく気がした。

 昔から何一つ変わらず、私たちに無邪気な笑顔を見せてくれるナツミを見ていると。


 いつまでも三人一緒になんていられない。

 私たちはもう、純粋な子どもではないのだから。


 だけどナツミはいつまでも変わらなかった。

 ナツミの気持ちは知っている。


 少なくともナツミもヒロトが好きだって。

 でもそれ以上に彼女は、三人が好きなのだ。


 だから私は一人、ピエロのように今日も何も知らないフリをする。

 ナツミとヒロトのために。

 私は結局、まだ諦めることができないから――


「うん。一緒に帰ろう、今日も三人で……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大好きなあなたと醜い自分 美杉。(美杉日和。)節約令嬢発売中! @yy_misugi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ