ピザ、ピザ、ピザ

 ――ピンポーン。

 部屋にインターホンの音が響く。


「きたきたきたー!」


 カズが勢いよく立ち上がり、玄関へと駆けていった。

 リョウはソファの上で頭を抱えていた。目の前のゲーム画面には、カズの操作キャラクターが勝利の決めポーズをとっている様子が大きく表示されている。

 対してリョウのキャラクターは、画面端でガックリと項垂れていた。


「マジか……」

「てことで、お支払いお願いします!」

「くっそ……はいはい……」


 カズはすでに玄関の前で待ち構えており、にこにこと得意げに笑っている。リョウも渋々立ち上がり、財布を取り出して玄関へ向かう。

 カズはすでにピザを受け取り、満面の笑みを浮かべていた。


「やっぱピザって最高!」


 支払いを済ませたリョウが悔しそうにため息をつきながら戻ると、カズはさっそくピザの箱を開けた。ピザの香ばしい香りが部屋に広がる。湯気とともに、焼き立ての生地の香ばしさ、チーズの濃厚な香り、トマトソースの甘酸っぱい匂いが一気に部屋中に広がる。


「ピザの箱あける瞬間ってたまんないよな!」

「食べたらもう一戦だぞ」

「わかったわかった!」


 カズが目を輝かせながらピザを手に取る。リョウもそれに続くようにピザを手に取り、一口かじる。サクッとした外側の生地の歯ごたえと、もちもちとした中の食感の対比が心地よい。熱々のチーズが舌の上でとろけ、トマトソースの爽やかな酸味と絶妙に絡み合う。


「コーラあったよな?」

「あったあった、取ってくる」


 リョウがそう言いながら立ち上がると、カズはもう次のピザに手を伸ばしていた。

 しばらくゲームの話題をしながらピザを食べ進めていると、ふとカズがピザ屋からもらったチラシを見て言う。


「次さぁ、照り焼きピザとか頼んでみたいんだけど、どう?」

「あー照り焼きもいいな……なんだかんだいつも定番のピザばっかり頼んでるからな」

「トマトベース系以外のは……えっと、バンビーノ、クアトロフォルマッジ……?あ、デザート系のもいいな」

「まぁわかるけど、でも何種類も選ぶのはちょっとな。量と値段が」

「あ、じゃあ、作んのどう?」

「あぁ…でもこの大きさだと、うちのオーブンに入らないだろ」

「だから、小さいのをたくさん作んのよ!」


 カズが楽しげに言うと、リョウはそのアイデアを頭の中で思い描くように少しの間沈黙した。そして、やがて口元に微笑みを浮かべた。


「うん、やるか、ピザパーティ」

「よっしゃー!」


 こうして、翌日に「手作りピザパーティ」をすることが決定した。


 *


 翌日、二人はスーパーへ向かい、ピザ作りに必要な材料を買い込んだ。小麦粉、トマトソース、チーズ、各々好きな具材をカゴに入れ、満足げに帰宅。作るものは相談せず、お互いどんなピザを作るか期待していた。


「よし、さっそく生地作りだ」


 リョウが意気込みながらボウルを取り出し、さっそく小麦粉とイーストを投入する。計量は手慣れたものだ。適量のぬるま湯を加え、木べらで混ぜ始めると、粉が少しずつまとまりを見せてきた。

 それを見たカズも意気揚々と袖をまくる。リョウの真似をして同じことを繰り返し、多少まとまった自分の分の生地に手を突っ込んで触る。


「おわー…べたべたするー…」


 指にまとわりつく生地に、カズは思わず眉をしかめた。まるでノリのような感触に戸惑いながら、指を振ってもなかなか離れない。粘り気のある生地が伸びてはまとまり、まるで悪戯でもされているかのように絡みついてくる。


「最初はそんなもんだ。ちゃんと捏ねればまとまるよ」


 リョウは慣れた手つきで生地を折りたたみながら、リズムよくこねていく。カズも見よう見まねで生地をこねるが、なかなか思うようにいかない。手にくっつく感触が気になって、余計な力が入ってしまう。


「リョウ、これ全然まとまらん」

「力入れすぎなんだよ。もっと優しく扱え」

「ピザ生地って手間かかるのな……」


 カズは苦戦しつつも、ようやくまとまり始めた生地を見て満足そうに頷いた。


「よし、発酵させるぞ」


 リョウがボウルに生地を入れ、ラップをして温かい場所に置く。発酵が進むまでの時間はじれったくもあり、楽しみでもあった。


 待つこと1時間。


「おお!? なんかめっちゃ膨らんでる!」


 ラップをめくった瞬間、カズは思わず声を上げた。ふっくらと膨らんだ生地が、ボウルの中で静かに息をしているようだった。カズも期待に目を輝かせながら、膨らんだ生地をそっと指で押してみた。もっちりと弾力のある感触に、意味もなく笑ってしまう。これから始まるピザ作りに、二人のテンションはますます上がっていった。


「発酵成功だな。これを伸ばして、好きな具材を乗せて焼けば完成だ」

「おっしゃー!」


 二人は生地を小さく分け、それぞれ好きなピザを作ることにした。

  発酵した生地は柔らかく、適度な弾力がある。手に吸い付くような感触を楽しみながら、軽く粉を振って丸く伸ばしていく。二人は無言になりながらも、それぞれのこだわりを詰め込んだピザ作りに励む。

 リョウは手際よく生地を成形し、ツナをマヨネーズで和えながら、「これぐらいでいいか」と自分なりのバランスを見極めている。一方、カズはポテトを薄切りにしながら、「ちょっと厚めのほうが食感が残っていいか?」と試行錯誤していた。リョウは均等に具材を並べることに集中し、カズは「こっちの方がうまそう」と、直感的に配置を決めていく。

 二人は没頭しているのだろう、カウンターの上には次々と完成したピザが並べられていく。明らかに二人分ではない量がどんどん出来上がっていった。


「一気に焼けないし、そろそろ焼いてくか」


 リョウが言うと、カズも手を止め、作業台に並んだピザを見渡した。すでに生地はしっとりと馴染み、具材がしっかりと落ち着いている。トマトソースの鮮やかな赤、チーズの質感、そしてツヤツヤと輝く照り焼きのチキン。どれも焼く前から美味しそうだった。

 二人は慎重にピザをオーブンの天板に移し、一枚ずつ丁寧に並べる。扉を閉め、温度を確認すると、すぐにオーブンの中で生地が膨らみ始めた。チーズがじわじわと溶け、具材が熱に包まれていく。しばらくすると、部屋中にピザの焼ける香ばしい匂いが広がった。


 リョウ作:

  - ツナマヨコーンピザ:マヨネーズたっぷりのツナにコーンを散らしたピザ

  - 照り焼きチキンピザ:甘辛の照り焼きチキンをのせた和風ピザ

 - ペスカトーレ:魚介類がふんだんにトッピングされたシーフードピザ

 - 4種のチーズピザ:モッツァレラ、チェダー、ゴルゴンゾーラ、パルメザンのチーズ好きのための一品

 カズ作:

  - マルゲリータ:トマトとバジルでシンプルに仕上げたいつものピザ

  - ポテトベーコンピザ:ホクホクのポテトにカリカリのベーコンを乗せたピザ

  - チョコバナナデザートピザ:チョコソースとバナナをのせた甘いピザ


「うおぉ、めっちゃいい匂い!」

「よしよしよし、焦げてない」


 いよいよ試食。トングを使い、丁寧にピザを取り出して皿に並べると、テーブルの上は色とりどりのピザで埋め尽くされた。待ちきれずに手を伸ばしたカズが、勢いよく一切れを口に運ぶ。


「ツナマヨコーンイケる!」


 熱さに少し口をすぼめながらも、満足げに頷く。濃厚なマヨネーズの風味とツナの旨味が絶妙に絡み、甘いコーンのアクセントが効いている。


「うん、照り焼きチキンも想像してたよりかなり良い」


 リョウも自作の照り焼きチキンピザを一口齧り、甘辛いタレが舌の上に広がるのを楽しむ。ソースが染みたチキンがジューシーで、チーズのまろやかさとよく合っている。


「マルゲリータも家で作ると結構違うな」

「このシーフードのやつもうまい!」

「ペスカトーレピザな。冷凍のシーフードミックス使ったけど確かにうまいな」

「ポテトベーコンにチーズあっても良かったかも…あ、チーズピザと合体するか!」

「おい、行儀悪い」

「これうまっ! チーズ伸びっ!」


 次々と皿に手が伸び、それぞれのピザを試していく。デザート枠のチョコバナナピザを恐る恐る口にしたリョウが、カズに親指を立てる。


「チョコバナナピザ意外とアリ」

「やっぱりな。マシュマロチョコも試したかったなー」

「買っとけばよかったな、ウマいわデザート系」


 オーブンが空くと次のピザ、また次のピザを繰り返し焼き続け、テーブルの上には次から次へとピザが乗り続ける。二人が満腹になるまで食べ続けても、いくつかのピザが残ってしまった。


「こんなに作ったら明日の朝もピザだな」

「まあ、いいんじゃね? 朝ピザとか贅沢だし」


 カズが腹をさすりながら笑うと、リョウも肩をすくめてソファに倒れ込んだ。満腹と心地よい疲れが全身を包み、食後の余韻に身を委ねる。


「次も作る?」

「いや、やっぱ頼んだ方がいいな。俺たち作りすぎる」


 二人は顔を見合わせ、笑い合った。ソファに転がる二人の視界の端に、まだ手つかずのピザがいくつか残っている。けれど、もう誰も手を伸ばそうとはしなかった。



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