一般通過高校生の俺氏、戦争に巻き込まれる。

ゴンザレス次郎

第1話 プロローグ

 西暦3578年 12月


 椴崎ヶ原高地にて


「まったく…いつまでつづくんだよ…この戦いは…」


 隊列の中で、雪で悴んだ指を擦りながら、一人の男が愚痴をこぼす。


「あーあ、クリスマスだってのになんで戦争をしなきゃなんねえんだよ。」


 また一人の男が愚痴をこぼす。無精髭を生やしたその男は随分くたびれていた。

 この隊は既に疲労困憊であった。


「前方に敵軍視認!隊列を崩すな!」


 上官の声で空気が変わる。


 全ての兵士が手に小型のプラズマ砲を携える。


「…ここで勝てば帰れるんだ。」


 ボソリと呟いた一言は、皆の士気を上げる。


「構え!」


 キビキビとした動きで、全員が銃を構える。


「撃てッ!」


 一斉に発射された光線のごとき銃弾が、雪とともに両軍を飛び交う。

 何人も倒れるが、隊列は崩さない。


 敵はどんどんと減っていく。

 勝利は目前だ。


 ゴォォ!

 突然、上空からそんな音がした。


 男は空を見る。

 雪雲で視認性が悪くなった空。

 1つの物体が落下していた。


「…爆弾?」


 目を細め、微かに捉えた楕円形の形状から、無精髭の男はそう推察した。

 隊は障害物のある場所に身を隠した。


「…?」


 数分経つが、未だに起爆しない。

 もう落下してもいいはずだ。

 恐る恐る、兵士達は落下予想地点を見る。


 ドスンと物体が地面に落ちた。

 それだけだった。


「ひるむな!撃て!」


 前回の戦いでも食らったハッタリの戦術と気づいた上官は直ぐに命令を下す。


 兵士が再度銃を構えた時、落下してきた物体が音を立てて開いた。

 シューっと煙を巻き上げて開いたそれに戦場の全員が釘付けになる。


「…人?」


 中には人が入っていた。

 それも15、6歳ほどの少女が。

 ゆらりと立ち上がったその少女は、透き通るような瞳を兵士に向ける。

 美しい。敵も味方も関係なく、その少女に見とれた。

 血で血を洗う戦場にさいた一輪の白百合。そんな表現がピッタリの美しさだった。

 兵士たちが惚けていたのも束の間。


 次の瞬間、少女の燦燦と振りゆく初雪のように白い髪と透き通る瞳は、インクを垂らしたように黄色く染った。


「戦者…」


 兵士のひとりが呟く。


 戦者

近年、敵国、つまり天照帝国で開発されていた人間をベースとする新型の兵器。


「はぁ!?戦者!?実用化はまだじゃないのか!?」


 戦者の実用化は少なくともあと5年。そう判断を下したのは最高責任者だった。

 そのはずだが、戦場にはそれがいた。

 ふと、男が敵軍のど真ん中にいたはずの少女に目を向ける。

 髪と瞳が黄色く染った少女と、目が合う。

 引き込まれるような黄金色の瞳が、こちらを捉えた。

 刹那、バチッと弾け、稲光が走る。

 男はその光で目を瞑る間もなく、首をはねられた。


「うわぁぁぁ!?」


「く、来るなぁァ!」


「ぎぃぁぁ!」


 稲光が走る。

 頚がとぶ。

 走る。

 とぶ。

 はしる。

 はしる。



 かくて、聖夜の夜。


 一人の少女兵器が、この戦いを終わらせた。

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一般通過高校生の俺氏、戦争に巻き込まれる。 ゴンザレス次郎 @gonzaresziro

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