第二章 隣り合う君     第2話

翌日

いつも通りに目を覚ます。通話はもう繋がっていなかった。

まじか、という思いが募ったが、君に「おはよう」の文字を送る。君はまだ寝ているのかな。準備をしていると電話がかかってくる。君からの着信。驚きながらも緑のボタンを押す。

「おはよ!!通話切れちゃってたね、、しょぼーーん。てか!多分寝落ちしちゃってたよねごめんね。いびきとかかいてなかった!?」

「おはよう。大丈夫だよ。僕もあの後すぐ寝たから。」

「よかったーーー!それ聞きたくてかけちゃった!ごめんね!今日何時にする??」

「3時には終わるよ。」

「じゃあ5時に星海丘集合でもいい?」

「わかった。」

「楽しみだね!!」

「うん。」

「またね!!」

君との通話が切れる。今日はついに君とプライベートで会える日。いつもより早く起きて少しだけワックスをつけてみた。『髪をぐちゃぐちゃにして、、、』真似をするが全くうまくいかない。やばい笑われてしまう。そんなことをしていると気がついたらもう家を出る時間。

「行ってきます!!!」

髪型は納得いかないし、服だって。そんな思いをしながらいつもよりも慎重に自転車を漕ぐ。


「木村くん、なんかいつもとちゃうね。」

突然話をかけられる。この子は学科でも男女問わず人気者の花柳渚(くりゅうなぎさ)さんだ。突然話しかけられたことに動揺してしまい

「す、すみません、、。」

なんでもないのにまた謝ってしまった。

「違う違う、なんか雰囲気違うと思って、いい意味でね!?なんかあったのかなーーって思って。」

「ありがとうございます。今日実は、、」

話したこともない彼女に今日のことを話す僕。誰も信用しない僕が彼女に全てのことを話してしまった。

「そーなの!!いいじゃん!!どこの人なのー!!??」

「電車で出会った人で、櫻坂大学の子です。」

「なにそれ!運命じゃん!!!」

「そうですよね、ありがとうございます。」

「木村くん、デートの男の子に私が絶対に相手の子を射抜けるようにしてあげよう!」

(デートではないんだけどな、、)

「是非お願いしたいです。」


花柳さんは、おもむろにスプレーを取り出す。

「ちょっとセット変えるからねーー。」

スプレーをかけ櫛を使うといつも通りの髪に戻る。

「え?何したんですか?」

「ドライシャンプーだよー。これね!おすすめだから!!」

そしてまるで人気ヘアアーティストのように僕の髪をいじる。


「はい!できた!」

「ありがとうございます。これで、」

話を遮り彼女はいう。

「髪だけね?まだ終わりじゃないよ!」

「ええ!!」


メイクまでされて、鏡を見るとまるで僕じゃない誰かがそこに映る。

「かんぺきーーー!敦也くん素材良かったからマジでかっこよくなったわ!これで爆モテだ!」

「あ、ありがとうございます!すごいです!」

「頑張ってきな、また教えてね!ところでどこ行くの?」

僕は今日のことを話す。

「え!あはは!!じゃあちょっとやり過ぎちゃったかもねてへ、だけどかっこいいのが1番だ!!胸張って米買ってこい!」

「えええーーー」

本当に勢い任せで突風が吹いているようだ。だけど妙に心地よい。本当に感謝だ。


P.M.5:00

「お待たせー、待った??」

少しだけ早く着いていたので、ソワソワしながら駅のホームを駆け巡っていた。

「大丈夫です!」

なんだかよくわからないことを言ってしまって、彼女はクスッと笑う。

「行こ!」


彼女とただ買い物をした。今日はカレーを作るらしい。人参なども買い込んでいく。


だけど僕は緊張で手が震えたままだ。隣を歩く彼女を見ることができない。少しだけいつもと違う彼女。いつもよりもなんだか着飾っていてとても可愛い。彼女はたくさん話してくれる。今日のこと。一緒にご飯を食べること。


「え?今なんて言いました?」

「だから!お礼に一緒にご飯食べよってこと!!」

急な誘いに動揺を隠せない。彼女が夜ご飯を誘ってくれている。

「え、えっとい、行きます!」


彼女と並んで歩く道。僕の両手には5kgのコシヒカリ。これじゃ手は繋げないな。そんなことは思うはずもなく、彼女の家に向かう。一人暮らしをしているらしい。

おもむろに僕は彼女に聞く。

「見ず知らずの男性を家に招くのはいいのですか?」

そんな僕を見つめる彼女の表情は少し怪訝そうだ。

「敦也くんなんでそんなこと思うの?私はね敦也くんのことそんな風に思ってないよ。だって寝落ち通話もしちゃったしね!」

夕陽に照らされてるからかな、少しだけ彼女の顔が赤くなる。

「そそ、それは、、。確かにそうですね、、。」

「さっきからずっと敬語だよ?」

「ご、ごめん。」

なんだか、小っ恥ずかしい気持ちになってしまった。彼女が僕のことを他人ではない存在として見てくれている。それだけでただ嬉しかった。胸の鼓動はどんどんと上がっていく。止まってくれない気持ちが前にいかないように止めておくことだけでもう精一杯だ。


「さあ着いたよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る