第2話:小さなサキュバスとお風呂
熱いシャワーの感覚が、強張っていた肩の筋肉をゆっくりとほぐしていく。湯気が白く立ち込める空間で僕はようやく一人になれた安堵感に息を吐いた。
「…またやってしまった」
先程の光景を頭の中で振り返る。
ソファーに座っている僕に甘えるリラ。
彼女はただ甘えていただけなのに、彼女の魅力に抗えず情けなく短絡的に体が反応してしまった。
きっと彼女はそれでも良しとするのだろう。
でも、僕が彼女に完全に溺れてしまったら。
彼女を貪り、安易な性処理道具として使用してしまったら…。一体誰が彼女を大切にするというのだろう。
「僕が大事にしないとな…」
「お兄さん、何を大事にするのぉ?」
「なにって…そりゃあ…ん?」
いつの間にか僕の背後にリラがいた。
「リ、リラ、なんでここに!」
大きく取り乱し、思わず声を荒げる。
「なんでって…だって、お兄さんが汚れちゃったのってリラのせいなんでしょ?だからリラがお兄さんの体洗ってあげようかなーって思って…。」
リラが両手の人差し指をくっつけ、下を向く。
まるで怒られた小動物が反省の色を見せているみたいでとても可愛らしい。
僕は流石にその言い訳は苦しいだろ、と思いながらも
強く言い返すことができなかった。
「リラ…ありがとう…」
そういうとまるで花がパッと咲いたみたいに彼女の表情が明るくなった。
リラは自分の身体にボディーソープを塗りたくると、
そのままピタッと僕の体に密着してきた。
「リ…ッリラ…ッ…」
思わず声にならない悲鳴をあげる。
リラはまるで僕の体にマーキングするかのごとく、
そのすべすべな肌を擦り合わせてくる。
尋常ではないほどの柔肌が、僕の肌を擦り上げるたびに、なんとも言えない快感が全身を走り抜けていった。
「リラがお兄さんをキレイにしてあげるからねっ♡」
二つの柔らかな感触が背中を自由に泳ぐ。
リラの手がまるで蛇のように、するすると不規則に僕の体を這い回っていく。
体の下腹部から再び熱を帯びた疼きが溜まっていくのを感じた。
ああまた。
さっき反省したばかりなのに。
「リラ…ッ離れ…ぁぁ…」
「お兄さん、なあに?リラよく聞こえなあい♡」
僕がなにか言葉を発しようとするたびに、リラの指が太ももの内側、際どいラインを指でツッーとなぞる。
ゾワゾワとしたもどかしい快感が欲望をさらに助長させ、僕の意思を弱らせる。
「前も洗ってあげるねえ」
「やっやめ…!」
直後、リラが面白いものを見つけたかのように、目を細め口角をわずかにあげた。
羞恥と罪悪感で顔が耳まで真っ赤になっていくのがわかる。
「お兄さん、ここ、すっっごく硬そうだね…♡でもここって男の人の大事なところだからぁ、リラが触んないほうがいいよねぇ…♡」
「…ッ…!」
そう言ってリラは僕のふともも付近の、際どい部分をしなやかな指で弄ぶ。
小さな快感が何度も何度も送られてくる。
しかし、リラは決してそれに触れようとしない。
「ッッッ♡」
僕が彼女の指先が作り出す快感に震え、体を小さく飛び跳ねさせるたびに、彼女は目を細め、無邪気そうな普段とは違う妖艶な笑みを浮かべた。
「ねぇ、お兄さんはここリラに洗ってほしい…?」
リラの深紅のように赤い瞳が僕の目を捉えて離さない。その美しい瞳を見ていると、頭の中に靄がかかったような錯覚を感じ、うまく思考できなくなる。
体の内側にある欲望を押さえつけている鎖が、
ほんの少し彼女の手で緩められている。そんな気さえしてくる。リラの指先が、ソレ以外の部分を的確に走り回る。快感が作り出されるたびに、逆にもどかしさはどんどん増していった。
「リ…ラ…おね…がい…」
そんな状況で、理性など長く持つはずがなかった。
僕は恥ずかしさで顔を真赤にしながらリラに頼んでしまった。
「……!…お兄さんかわいい……!!!!リラがいーーっぱい洗ってあげるねっ♡」
リラの柔らかな指先が僕のそれにそっと触れる。
そして大切な宝物を扱うかのように、泡でそっと
包みこんだ。それから、数回なで上げる。
「……ッ♡」
たったそれだけのことなのに、尋常ではない、耐え難い快楽が全身を突き抜ける。
思わず声が漏れてしまう。
「根本までしーっかりリラが洗ってあげるからね…♡」
泡をぬりたくり、上から下へ、余すところがないよう満遍なく指をすべらせる。
僕の反応を伺うように、その瞳はじっと僕の目を見つめて離さない。
限界はあっというまだった。
僕の限界を察してかリラが洗う速度を早める。
上から下へ、下から上へ。いつの間にか我慢させる気のないストロークへと変化していた。
腰が少し浮き上がり、全身ががくがくと震え始める。
思わずリラの肩を力強く掴んでしまう。
「…もう、だめ…っイッ……!!!!!」
目の前が白く点滅を繰り返し、大きな快楽が全身を貫いていった。脳内は多幸感に満ち溢れ表情が緩む。
何度か腰が痙攣を繰り返し、ドクドクと熱いものが放出されていく。脱力感が全身を襲い、思わずリラに体重を預けてしまった。
目の前にいるリラはそんな僕の様子を愉しそうに眺めていた。
「リラは洗ってただけなのに〜、お兄さんまた汚れちゃった…♡」
くすくすと笑うリラの頭を数回撫でる。
それは一見無邪気な少女に、またしても快楽に溺れてしまったという事実への僅かな後ろめたさからくる行為だったのかもしれない。
「今度こそちゃんと洗って上がろうか。リラのことは僕がちゃんと洗ってあげるからね」
そう言うと彼女は「お兄さんと洗っこ〜♪」と
軽く鼻歌を歌い始めた。
その後は本当に体を洗い流すだけの、穏やかな時間だった。リラがシャンプーで泡を作っていたりもした。
まるでさっきまでの出来事などすべて幻だったかのように。
小さなサキュバスとの理性崩壊同居生活 @umiyurisan
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