前の席のまま

田中

席替え

「あの前田さんが、お前のこと好きらしいぞ!」

「何言ってんだ、そんなわけないだろ、あの前田さんだぞ。」

僕はこの男、田中を信用しないと決めている。なぜなら田中は、普段から僕をからかい、ちょっかいを出して大きく笑う悪男だからだ。


「田中、そんなのいいから早く無言掃除をしろ。」

「本当だってー!」

必死に訴えを続ける田中の横を、福田が通りかかった。

「本当だよ.....。」

「お前にまでそんな言われても、確信できない。」

もしかすると、福田は田中と手を組んで、僕を騙して、おとしめて、楽しもうとしているはずだ。


「その話みんな知ってるよ?」

現れたのは、大倉さん。

クラスの中心にかなり近い存在の人。

田中と福田は中心から最も遠い存在。


「初めて聞いたときは意外だなって思ったよ。」

本人を前に言う人だが、この大倉さんが言っていることなら信じれる。


でも、前田さんと僕は一度も会話したことはないはず。なぜ僕なんだ?


「お前から告白しろよ!その後俺も告白するから、」

「なんで田中も告白するんだよ。」




​❀✿❀✿✿



「席替えをします。」

「え、今からですか?」

ランドセルを背負ってドアの前に立っていた僕は、先生に呼び止められ、帰りの会は終わっていなかったことに気づく。


しかし席替えとは、なんと嬉しいことか。僕の両隣の席が田中と福田でストレス気味だったからありがたい。この2人から解放されることが僕の最近の願いだ。


「前から順番にくじを引きに来て下さい!」

僕は残り2枚となったくじから1つ選び、引いたくじの番号を確認した。

「30番、あれ?この席、」

黒板に掲載している席番をよりよく確認すると、30番の位置は、なんと僕が今座っている席と同じ場所だった。


「あの先生、僕、」

僕はすぐに林田先生のところに行き、誰かに席を交換してもらえないか頼んだが、「ごめんね。運が無いと、宝くじが外れたと思えばいいから」と軽くあしらわた。僕はこのとき「宝くじ外れたら落ち込けどなあー」と思った。


「そうだ!田中、または福田でもいい。くじ、席交換しよう!」

「悪いな、お前に交換するくじはないんだよ。」

「お前に運があるなら席は変わっていた。ということはお前には運がないんだよ!!」

そうかな?また同じ席になるヤツなんて逆に運があると思うけど。




✿❀✿✿❀


「皆さん!それでは机を移動して下さい!」

クラスはいっせいに指示に従い席替えを始めた。

田中と福田は僕に嫌がらせを始めた。

「おい、糸藤。邪魔だよ、動けよ!行けよ!ほら!行け!」

「田中、やめろ。」

福田は田中の肩を押さえ、僕に同情した目を向けた。

「そうだったな。コイツ変わんないんだったな。悪い、そうとも知らずに。元気でな。」

別に辛いことだとは思っていない。こっちはもうお前らと会わなくていいんだから。

「また会おうぜ。」

いいよ会わなくて。


「おいおいおい。マジかよ~、席替え超楽しい!なあー福田。」

「そうだなー、このときを楽しもう。」

たしかに、机と一緒に移動するときは楽しいことか。

あいつらに思い知らされたな、あれ?

田中と福田は元の席から一つ前の席にしか移動してない。

「お前らもほとんど場所変わって無いじゃないか」

よく俺のことをバカにできたな。せっかくの席替えなのに、全然楽しくないな。


「あ!糸藤くん。」

「…前田さん、」

机とここに来たということは、もしかして

「ほら、31って書いてあるでしょ。」

僕の隣になるこの前田さんはクラスの男子全員から惚れているすごくモテる人

「これからよろしくね。糸藤くん。」

「うんよろしく。前田さん。」

僕にたくさんの視線が集まっている。そうか、男子はみんな前田と隣になりたかったんだな。

「あ、田中くんも福田くんもよろしくね。」

「あ、は、は、い、よ、よろ、よろ、よろし、しく、お、おね、お、おね、おね、おね、おね願いしまーす。」

めっちゃ動揺してる。

「………よろしくお願いします……」

声ちいさ。2人とも普段俺としか話さないから、緊張してるんだろう。


「糸藤、」

「あれ、アキラ!」

「ほら、29。隣で嬉しいよ」

「俺もすごく嬉しい。よろしく」

「よろしく」

「あ、前田さん。この人は1年生から仲良くなった俺の友達のアキラ」

「よろしくね。佐藤さん」

「いいよアキラで、」

「そう?なら私もスズコって呼んで」

「分かった。これからよろしくスズコ」

「うん。アキラちゃん」

え、アキラちゃん?

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