第三十三話 目覚める記憶

■ 不安定な均衡

 海岸沿いの夜は静寂に包まれていた。

 しかし、その静けさとは裏腹に、隼人たちの心は決して安らいではいなかった。


 ノワールとルミエは、互いに寄り添うようにふわりと浮かんでいた。

 だが、二人の様子はどこか不安定で、特にノワールの表情には僅かながら動揺が滲んでいた。


 美咲が心配そうに問いかける。

 「……ノワール、大丈夫?」


 ノワールは少しの間、何かを考えるように沈黙した後、小さく頷いた。

 「……ワタシ……ヘイキ……。」


 だが、その言葉とは裏腹に——


 ノワールの体に、再び異変が起こり始めた。


■ 闇の揺らぎ

 突如、ノワールの体が黒い光に包まれた。

 それはまるで、彼の存在そのものが闇に引きずり込まれるかのような感覚だった。


 「……ッ!」


 ノワールが身をよじり、頭を押さえる。

 隼人が慌てて駆け寄ろうとしたが、カロンが手を伸ばして制した。


 「下手に触るな。ノワールの中で、何かが起きている。」


 ノワールは痛みに耐えるようにうずくまりながら、ふと小さく呟いた。

 「……コレ……ナンダ……?」


 彼の声には、恐怖と戸惑いが混じっていた。

 ルミエがそっとノワールに寄り添う。

 「……ノワール……?」


 その瞬間——


 ノワールの瞳が、ぼんやりと光を放った。


 それと同時に、隼人たちの目の前に——


 闇に包まれた、どこか遠い記憶の断片が映し出された。


■ 目覚める記憶

 黒い霧のような幻影の中、ノワールはぼんやりとした意識の中で、その風景を見ていた。


 暗闇に閉ざされた世界——

 それはどこまでも深く、果てしない闇の空間だった。


 彼はそこにずっといた。

 時間の流れすら分からない、孤独な空間。


 その時——


 まばゆい光が差し込んだ。


 光はゆっくりと広がり、暗闇を打ち破っていく。

 ノワールは、その光を目で追った。


 そこに立っていたのは——


 もう一人の妖精。


 ダイヤモンドのように透き通った身体。

 ノワールとは対照的な、静かで優しい輝きを放つ存在。


 ルミエだった。


 「……ワタシ……?」

 ノワールは、朧げな記憶の中で呟いた。


 ルミエが優しく微笑み、手を差し伸べる。

 「……ノワール。」


 その声が届いた瞬間——


 ノワールの記憶が一気に蘇った。


■ 忘れられた過去

 ノワールは、はっきりと理解した。

 彼はただの妖精ではなかった。


 彼は、ルミエと共に存在していた。


 ずっと昔、光と闇は一つだった。

 しかし、ある時、何かのきっかけで二つに分かれた。


 光はダイヤモンドに、闇はブラックダイヤモンドに封じられた。


 長い年月の中で、ノワールの記憶は閉ざされていった。

 封印の影響か、それとも闇の力が彼の意識を飲み込んだのか……。


 ルミエは、ずっとノワールを待っていたのかもしれない。


 「……ワタシ……ワスレテタ……。」

 ノワールが呟く。


 隼人がその言葉を聞いて、静かに言った。

 「ノワール……お前は、最初からルミエと一緒だったんだな。」


 ルミエがそっとノワールの手を握る。

 「ワタシタチ……ズット……イッショ。」


 ノワールは少しだけ驚いたような表情をした後、小さく頷いた。


■ 未来への決意

 ノワールの記憶が戻ったことで、隼人たちの中で確信が生まれた。


 ノワールとルミエは、互いに支え合う存在。

 この二人が揃うことで、進化の均衡が取れる。


 美咲が真剣な表情で言う。

 「……もしかして、二人が揃うことで、鉱石の進化を制御できる可能性があるのかも。」


 カロンが腕を組みながら考える。

 「もしそれが本当なら、政府が恐れていた“進化”を制御する方法は、最初から二人の存在そのものだったのかもしれない。」


 本田が不敵に笑う。

 「ってことは、こいつらがいれば、政府もエクス・ノヴァも黙らせられるってことか?」


 隼人はノワールとルミエの方を見つめながら、静かに言った。


 「……お前たちはどうしたい?」


 ノワールとルミエは、お互いを見つめ合った後——


 しっかりと頷いた。


 「……マモル。オマエタチモ。」

 「ワタシタチ……イッショニ……。」


 彼らは、逃げるのではなく、共に戦うことを選んだ。


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